朝青龍、白鵬、琴欧州、黒海、露鵬、把瑠都ら外国人勢の活躍で土俵に活気が戻ってはいるが、一時の勢いを取り戻すことができない相撲界。最近では、貴乃花親方が改革案を提示し、逆に幹部から注意を受けるというできごともあった。ところが、この貴乃花親方の改革案は、昭和7年に起こった「春秋園事件」でそ中心となった関脇天龍三郎が当時の協会幹部に突きつけた改革案に近いものがあるのである。年寄名跡の問題や相撲茶屋の問題などは、74年後の現在でも完全な改革ができないままその問題点をずるずると引きずっているのである。
本書は、協会を飛び出し「新興力士団」を立ち上げた天龍の動き、当時人気者であったが天龍に巻き込まれる形で協会を脱退しながらも、結局復帰することになってしまった出羽ヶ嶽の悲劇、天龍たちの脱退のおかげで幕内に幸運にも昇進でき、その後大横綱となり理事長として相撲協会の大改革を成し遂げた双葉山の3人の生き方を軸にして相撲界改革の流れを歴史的にたどっていったものである。
いわゆる「春秋園事件」のあらましについては、私は昔、相撲雑誌などで読んでだいたいのところは知っていたが、著者はその詳細を天龍の著書やかつて取材した脱退組の若手であった綾若の証言などから再構成してみせた。問題点を明らかにし、天龍たちの行動をていねいに追い、それを踏まえて時津風理事長の改革の功績を、そして今後相撲協会がとるべき道はどうあるべきかを提言する。明治の「高砂改正組独立」と「新橋倶楽部籠城事件」、大正の「三河島事件」など、「春秋園事件」以前の力士たちの改革要求運動も押さえた上で、130年以上も続いている相撲界の悪しき体質・伝統を明らかにしているので、説得力がある。
若い相撲ファンにぜひ読んでいただきたい。相撲史にはこんな影の歴史もあるのだということを知ってもらうためにも。
(2006年9月23日読了)