俳優藤田まことが73歳にして語った自伝。戦死した兄のこと、物真似芸をする司会者を振り出しに「スチャラカ社員」「てなもんや三度笠」などでコメディアンとして人気の絶頂に達したこと。「てなもんや」の終了とともに地方回りでしのいでいた時期のこと、「必殺」シリーズで俳優開眼し、「はぐれ刑事純情派」「その男ゾルバ」「剣客商売」などのライフワークに出会えたことなどが時系列順に綴られている。
ただ、この手の「自伝」にありがちな自分の経歴をたどってその時々に感じたことで味つけをし、若き日に出会った先輩たちのエピソードをつけ、汚点というべき点も美化してしまっているというものにしかなっていないのが残念である。
本書からはコメディの難しさも藤田まことならではという演技の奥深さも何も伝わってこない。若くして戦死した兄への哀惜の思いはなんとか伝わってはくるのだが……。
おそらくは編集者かライターが口述筆記したものなのだろうが、こういう本を企画する場合は、やはり芸能について豊富な知識を持ち、本人の語らなかったものを補えるだけの仕事ができる人でないと、こういう何やら薄っぺらさを感じさせるものしかできないのだろう。
嵐寛寿郎は竹中労という聞き手のおかげで今でも読みごたえのある自伝「鞍馬天狗のおじさんは−聞き書きアラカン一代」を遺すことができた。著者も聞き手次第ではもっと面白いものを遺すことができただろう。そう思うと本当に残念なことである。
(2006年10月22日読了)