読書感想文


腐女子化する世界 東池袋のオタク女子たち
杉浦由美子著
中公新書ラクレ
2006年10月10日第1刷
定価720円

 著者は『AERA』などで女性のオタクについてレポートをして注目を浴びたライターである。「オタクは男だけ」という「世間」の常識に対して、女の方がオタク的要素を持っていると指摘し、いわゆる「腐女子」を中心としたレポートを書き続けている。
 本書は、そういった女性のオタクたちの状況をレポートするだけではなく、なぜ女性のオタクにボーイズ・ラブを好む者が多いのかを、現在の社会情勢を分析した上で解き明かそうとする試みである。
 著者は、「自分探し」や「個性の追求」などがもてはやされる風潮に対する反動として、「腐女子」が生まれてきたと指摘する。「自分探し」に疲れた女性たちは、現実は現実と割り切って生活しながら、その現実とは違う世界を楽しみたいと「ボーイズ・ラブ」などの自分とは関わらない世界を求めるのである。「私小説」的なものは生々しすぎ、主人公に感情移入するよりも、登場人物の恋愛を外から見て楽しむというわけである。男女の恋愛をとりあげたものは感情移入の対象となってしまうが、美しい男性同士という設定ならば自分を忘れることができる。著者は「自分忘れ」という造語を用いて「腐女子」という存在を肯定的にとらえている。
 現実では、格差が広がりライフスタイルは学歴でほぼ決まってしまう。女性誌は旧来通りの物差でライフスタイルに応じたコンテンツを提供する。しかし、そういった物差を無効化するのが「腐女子」なのだ。「腐女子」は「腐った女子」ではなく、「腐っても女子」なのである。
 著者は「物語」に逃避することによって、逆に現実を冷静かつ客観的にとらえ、地に足のついた生活を送れるのが「腐女子」のスキルであると説く。こういった分析が本当に的を射ているのかどうか、「腐女子」の実態にうとい私には判断ができかねるのだが、「ボーイズ・ラブ」が「物語」を重視しているかどうかという点に関しては、少し疑問を感じたりもする。「ボーイズ・ラブ」系のアニメはすでにいくつか放送されており、私も放送開始時には見てみようとするのだが、そこには「物語」の要素よりも登場人物の「キャラクター」や「関係」が重視されているように感じ、その「関係」だけを楽しむことができぬまま見ることをやめるケースがほとんどなのだ。
 果たして「腐女子」が「物語」を楽しんでいるといえるのだろうか。その前提がくつがえされると、結論もまた違うものになってくるのではないかと思う。そこらあたりは、別な書き手の考察を待ちたいところである。

(2006年10月22日読了)


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