発祥から戦後すぐの時期までの東西落語界の歴史をわかりやすくたどったもの。本書は蒐集マニアであり落語マニアでありしかも本職の落語家でもあるという著者が、その自分のコレクションにある第一次史料をもとに編んだ落語史なのである。だから、例えば初代春團治が発売したという「食べられるレコード”ものいふせんべい”」についても、単に伝えられてきたエピソードの一つとして語るのではなく、その現物の写真を掲載して実在したことを読者にしらしめてくれるのである。そこまでやるかと思われるが、そこまでやるのである。
師匠の二代目桂枝雀から「最近は米朝師匠のように、落語の資料を集めながら、落語の歴史も熟知した上で本を著せるようなタイプの噺家がいないから、米朝師匠の万分の一でもいいから、そのジャンルを押さえなさい」と言われていたとあとがきに書いているが、本書はそれに対する回答といっていいだろう。
本書を読んだからといって、落語「通」にすぐなれるわけではない。あくまで本書は「入門」なのである。つまり、こういった歴史をちゃんと知ってないと「通」なんて顔はできませんよ、ということなのだ。「通」になるハードルのいかに高いことか! 少なくともここに書かれているようなことはソラで言えるようになってからでないと、「通」と呼ばれる資格はないのだ。
プロの落語家にまでなってしまい、滅びた落語を復活させてしまうまでの「通」である著者だからこそ、本書のような「入門」書を書けるのである。「おやこ寄席」で子どもに落語の魅力を教えるのと、その姿勢は変わらない。
(2006年10月25日読了)