時は南宋の時代、高大将をはじめとする禁軍や朝廷は、安寧のうちに腐敗し切っていた。禁軍師範の王進は、武術の道を追求するとともに、禁軍を改革しようと愚直なまでに大将たちに提案するが、はねつけられるどころかあらぬ罪を負わされてしまい、年老いた母とともに都から脱出する。郊外の史家村で九紋竜とあだ名される史進という若者と出会った王進は、彼を弟子として鍛え上げる。王進と禁軍で同僚であった師範の林冲は、全国をまわって豪傑と接触している和尚魯智深との関係を疑われ、妻まで辱められた末に投獄される。魯智深は、大望を抱く役人の宋江と保正の晁蓋の人物の大きさにうたれ、2人を中心とした豪傑たちを結びつけようとしていたのだ。闇の塩を扱う盧俊義や風来坊の武松、名家の生まれの柴進など、様々な男たちが自らの運命を動かそうとしていた。
単行本発刊時に第9回司馬遼太郎賞を受賞し、北上次郎も大絶賛した話題作が文庫化された。私は原典の完訳や柴田錬三郎、横山光輝版などを読んできた。それとの比較になるけれど、やはりかなり異質だなと感じる。
これは柴錬版もそうだったと思うが(記憶違いだとごめん)、発端の「百八星飛翔」の場面がない。このため、無理に豪傑を108人揃える必要もないし、運命に導かれて集まるという神秘性もない。宋江たちの資金源を明らかにしたり、組織的な動きを明確にしたりと、実に合理的でリアリティのある物語になっているのだ。物語はまだ端緒である。今後どういう展開になるのか、評判通りの面白さなのか、楽しみに続きの出るのを待ちたい。
(2006年10月30日読了)