読書感想文


サンカの真実 三角寛の虚構
筒井功著
文春新書
2006年10月20日第1刷
定価760円

 サンカとは、農具の箕を作ったり竹細工や川魚漁を行い、山中を移住しながら生活していた人々のことである。民俗学では柳田国男が、歴史学では喜田貞吉ら高名な研究家が戦前には扱ったこともあるが、体系的にとらえたものはなかった。戦後、三角寛が「サンカの社会」を著し、これによって博士号を得、サンカ研究の第一人者ということになっている。
 著者は、三角寛の「研究」が一部を除いて全くの虚構であることを本書で徹底的に追及し、著者自身が取材した材料をもとに、サンカの真実をでき得る範囲でまとめたものである。
 著者は三角の著作に使用された写真が一ケ所でとられたものであることを明らかにし、それに三角が行けたはずのない日とさまざまな場所のキャプションがついていることを導き出す。さらに、その写真にとられた人の居場所を突き止め、そこでサンカ独自のものであると三角が断言した衣類や道具などが、実は三角自身によって用意されたものであったことを聞き出している。
 著者のフィールドワークは丹念に進められるのだが、踏み込めない壁があることに気づく。それは、サンカが被差別の民であるからなのだ。遺された文献も少なく、聞き取りをするには、相手の心に土足で踏み込み自分も傷だらけになる覚悟がいる。そして、大学などの研究機関にいる者にはそこまでやった人間はおらず、新聞記者出身のノンフィクション・ライターである著者のできることには限度がある。
 本書には、そのような著者の思いがこめられている。特に、三角の虚構に対する姿勢には執念すら感じられる。これは、実際に熱い壁にぶつかった著者が、その壁のことなどどうでもよいように虚構をまき散らした三角に対する怨念ではないだろうか。
 三角寛というハッタリを武器としたと思われる人物の生き方とともに、真実を伝えるということの重みを実感させる一冊である。

(2006年11月5日読了)


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