漫才「爆笑問題」の太田光と思想学者の中沢新一が「憲法九条」を語った異色の対談。
表題の「憲法九条を世界遺産に」という言葉は、太田がテレビ番組で発したものである。中沢がそれに着目し、いわゆる「戦争放棄」という非現実的なこの条項について、全く畑の違う2人が語り合うことになった。
本書では宮沢賢治の理想主義的な生き方から話が始まり、九条という理想があるからこそ、現実的な対応が可能になり、論議もできるのだという共通理解が得られる。そして、この条項はいわばドン・キホーテであり、自衛隊のような現実的な対応がサンチョ・パンサの役割を果たしているというところに話が進む。
憲法九条の位置付けがユニークで、単純な護憲論に終っていないところが面白い。特に太田が「面白いかどうか」という価値規準でこの条項をとらえているところが新鮮である。他に類がないから価値がある。憲法成立当時のアメリカと日本の考え方が偶然にも一致してできた突然変異の産物やからこそ、この条項は貴重なんだとする2人の意見には大きく首肯するのである。
本書は発売当初からベストセラーリストに載ったが、こういうものが支持を集めるというところに、まだこの国は捨てたものではないと思うのである。
(2006年11月19日読了)