著者は漫才コンビ「南海キャンディーズ」の「山ちゃん」。千葉で生まれ育ちながら大阪に出て芸人になることを志望した理由は、「もてたい」ということだった。そのために親を説得してわざわざ関西大学に進学。在学中から吉本興業の養成所NSCに入り、男前の相方を見つけてコンビを組んだが、笑いというものを全くわかっていなかったために失敗を繰り返し、2度のコンビ別れを経験する。そして見つけたのがしずちゃんである。しかし、「天才になりたい」著者は、しずちゃんという最高のボケ役を相方に持ちながら、自分もボケて笑いをとりたがってしまう。
若手の漫才師が悩み苦しみながら「笑い」というものに体当たりしていく、いわば青春ドラマみたいな一冊である。しかもこの青春ドラマ、徹底的にかっこわるい。このかっこわるさこそ青春そのものであろう。
そして、笑芸というものの入り口に立って、その深さを前にしておそれおののく著者の姿もある。まだまだ芸談という域には達してはいないけれど、こういう完成途上の若手芸人が感じている「芸」の重みをいっしょに感じ取れるというのはまた格別である。
(2006年11月19日読了)