読書感想文


学校が学習塾にのみこまれる日
前屋毅著
朝日新聞社
2006年10月30日第1刷
定価1200円

 著者は企業や経済を専門とするルポライター。本書は、企業としての塾を取材していくうちに、「ゆとり」教育から「学力」重視に転換した文部科学省の姿勢に疑念を抱いた著者が、学校についての取材も加えて「教育」について論じたもの。
 そういった経緯で書かれたものだからか、前半は学習塾の経営者に対するインタビューか日本の教育における塾の位置付けという形で書き進められる。ただ、経営者に対する取材のみなので、高収益をあげている塾の経営を肯定するかのような感じになっている。それなのに、とってつけたように「大学合格だけが教育か」という批判がなされる。そして、「学力重視」に舵を切った文部科学省批判と、それに踊らされるように進学に力を入れ始め塾講師も導入すようになった学校に対する批判が続く。そして、学校がいずれ塾にのみこまれてしまうという危惧をあらわにする。
 正直、切り口が一面的すぎるように感じられた。例えば塾に対して何らかの批判をするのであれば、経営者だけでなくそこで働いていた講師やその授業を受けていた生徒に対しても取材すべきだろう。さらにはフリースクールなど新しい塾のあり方を目指す経営者への取材もほしいところだ。また、公立の学校すべてが進学に一斉に舵を切っているわけではなく、単位制の学校や総合学科、あるいは普通科総合選択制の学校などにも触れ、学校の持つ可能性をもっと幅広く扱うべきだろうし、「不登校」や「いじめ」、「学級崩壊」が「ゆとり」や「学力重視」とどう関係があるのかなどについてももっと深い掘り下げが必要だろう。
 教育について、塾と学校の関係だけにしぼって書くという視点には問題ないし、重要な問題提起だといえるかもしれない。しかし、著者には教育はどうあってほしいかというところがかなりあいまいで、そのために軸足が定まっていないという印象を受ける。「学力」を「テストで点をとる力」という意味でしか使用していないあたりが、経済ライターの限界といえるかもしれない。
 塾と学校について経済的に論じるという視点や、教育は子どものためにあるという結論はよいけれど、社会構造や教育の本質には迫れないまま強引に結論に引っ張っていっているあたり、説得力に欠けるように思われる。
 一言付け加えておくならば、教育の現場には定時制もあれば障害児教育もある。そこにはあえて触れなかったのではなく、著者の眼中には全く入っていなかったのだろうと私には感じられた。むろん、塾や大学受験とは全く関係のない学校だから、本書のテーマからは外れるのだが、実は教育の本質はこういった「競争」とは関係のないところにあらわれるだけに、そういった存在を意識してもらいたいところである。

(2006年11月25日読了)


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