朝日新聞夕刊に連載中のルポを文庫にまとめたもの。連載時に読んではいたが、こういう形でまとまると、取材意図が明確になり、面白さも増す。
ひとつのテーマを「人脈」という切り口で追っていったもので、思いもよらぬ人物が数珠つなぎになって登場するのを発見した時の記者のわくわするような気持ちが手にとるようにわかる。
本巻では「女が働く」「主婦ってなに?」「『国家再建』の思想」「市民と非戦」「社長たちのアメリカ」「トヨタウェイ」「ケータイ文化」というテーマがとりあげられている。
女性の地位向上に尽力した人たち、主婦という立場で社会の中の「女性」というものを主張していった人たち、「国家再建」の名のもとに集まった中曽根人脈の広さ、「丸山真男」を軸に戦争反対の運動に身をおいた人々、海外駐在の経験を生かして企業のあり方を変えていった社長たち、「トヨタ」という企業を柱に日本の産業を支えてきた人々、そして社会のあり方さえ変えていった「ケータイ」に関わった人たち。
書き手も様々で、記者たちのもっている人脈の広さの違いや考え方が章ごとにはっきりと違っているのが、逆に効果的である。朝日新聞としては女性の地位向上をトップにもってくることで人権擁護というスタンスを明確にしようとしたのだろうが、「トヨタウェイ」ではまるで「プロジェクトX」を思わせるような企業中心のスタンスが見てとれたりもする。
全体に遊び的なものがないのがちょっと気にかかる。真面目すぎるのだ。だから、取り上げるテーマすべてに対し、それぞれを肯定的にとらえるような書き方になる。そして時には正反対のものを同じ本の中でそれぞれにほめたたえるようなことにもなる。まあ、その矛盾を全てのみこむところで日本という国は発展、変化をしてきたのだから、これはこれでそういう日本のあり方を浮き彫りにしているということはできるだろうが。
現代史をテーマ別に再構築し、その中心に「人間関係」をもってきたあたり、なかなか憎い工夫である。その取材の幅の広さも含めて、注目すべきルポだといえるだろう。
(2006年12月3日読了)