読書感想文


逆境戦隊バツ〔×〕 1
坂本康宏著
ハヤカワ文庫JA
2006年11月15日第1刷
定価620円

 食品会社に勤める騎馬武秀は身長が低い上に醜男で頭髪の減少を気にしてカツラを使用するオタクである。子どもの頃からいじめられ、劣等感の塊のような人生を送っていた。社内では美人で有名な社長の娘、来見三音を憧れの目で見ていたら、女性社員たちからセクハラ扱いをされ、人事部の実報寺女史に厳重注意を言い渡された。同僚で唯一の友人である鞍瀬が出社してこないので様子を見にいったら、彼は怪物に変身し、マンションの住人たちを惨殺していた。騎馬はなんと赤いマスクの戦隊ヒーローに変身してしまい、鞍瀬と戦う。来見社長に呼ばれた騎馬は、社長からクルミレンジャー・レッドとなって怪人と戦うように申し付けられる。なんと、実報寺もクルミレンジャー・ピンクとなっていて、チームを組むことになってしまう。怪人誕生に隠された秘密とは、そしてクルミレンジャーの戦いの行方は……。
 戦隊ヒーローもののパロディのように見えるけれども、ひねり方がそこらあたりの下手なパロディーとは違う。クルミレンジャーを動かす力は正義の力ではなく、それぞれが抱いている劣等感なのだ。劣等感が強く深いほど、クルミレンジャーは力を発揮するという設定なのだ。
 そして、主人公のダメ人間ぶりは誇張ではなく本当にこういう人間がいるだろうと思わせるひどさである。美人で優秀な実報寺も、人に見えないコンプレックスをプライドの盾の中に隠している。
 皮肉なことに、騎馬は憧れの来見三音とデートをするということになってまわりから羨望の視線で見られることによってコンプレックスが少し解消され、クルミレンジャーへの変身能力を失ってしまう。ここでは価値の逆転が行われているのだ。
 次巻は完結編。SF的なしかけがどのように展開していくのか、劣等感と変身ヒーローの間に横たわる矛盾はどのように解決されるのか、実に楽しみである。

(2007年1月3日読了)


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