手塚治虫ファンクラブの会長もつとめたことのある著者による、「私的手塚体験記」。あるいは「私的漫画史」。
幼いころ、自分がいつ手塚治虫のマンガを初めて読んだのか。初めて買った手塚マンガは、というような話から始まり、そこを糸口に昭和のマンガ史をたどっていくという展開は、私自身のマンガ愛読歴と重ね合わせながら読むことができ、非常に興味深かった。著者は自宅にあった「鉄腕アトム」や「サボテン君」など6冊の単行本が手塚マンガとの出会いだったそうで、しかもそれが3歳の時だというから驚きである。さらに雑誌「少年」を読み、「カッパ・コミクス」版の「鉄腕アトム」を買ってもらい……ついには出ている手塚マンガを全て揃えたいという野望にとりつかれる。
私も中学生の時に手塚マンガを次々と買い揃えようと少ない小遣いをやりくりしたものだが、中3の時に講談社版の全集が発刊されたので、それを揃えるということで落ち着いてしまったものだ。しかし、著者は私よりも少しばかり上の世代なので、全集発刊のころは手塚ファンクラブの結成というところまでのめり込んでいたようである。
著者は自分のコレクションから、手塚治虫が単行本を出すたびにどう書き換えてきたかを紹介したり、新書判コミックスの歴史と変遷をたどってみたりする。これは、ただコレクションの紹介だけでなくリアルタイムの体験がともなっていたりするので、読んでいてなるほどと感心させられる優れた内容のものになっている。重みというか、深みがあるのである。むろん、マンガ、特に手塚治虫の作品への愛情の強さはいうまでもない。
本書は雑誌連載のエッセイをまとめたもので、連載そのものは現在も進行中だということだ。確かに手塚マンガ史としてもやっとこれから「ブラック・ジャック」「三つ目がとおる」の時代にさしかかるところで終ってしまっているから、続編がなければ収まりがつかない。
続巻が楽しみな1冊である。
(2007年1月3日読了)