読書感想文


「お墓」の誕生−死者祭祀の民俗誌
岩田重則著
岩波書店
2006年11月21日第1刷
定価700円

 霊園に並ぶ「先祖代々の墓」。火葬にした後、骨壷をその墓におさめ、盆や彼岸には複数の故人の霊をまとめて供養する。このような形の「お墓」ができたのはいつごろからなのか。もともと死者はどのように弔われていたのか。民俗学者である著者は、長年のフィールドワークの結果をもとに、死者祭祀の変遷を追っていく。
 著者によると、現在の「お墓」のような形のものが現れたのは一番古い例で江戸時代中ごろ、寛政年代だそうだ。ただ、これは特別な例で、現在のように広まっていくのは文化文政のあたりからだという。それまでは祭祀は地域によって様々で、しかも僧侶が読経するのはせいぜい墓地の入り口くらいまで。埋葬に際しては仏教とはまったく関係ないのであった。
 現在の「お墓」のもとになったのは、埋葬地から離れた所にあった石塔だという。その下には遺体も遺骨もない。しかし、人々は埋葬地には手もあわさず、石塔を拝んだという。
 様々な方法で祭祀をいとなんできた伝統が、現在急速に変わりつつあるという。その地方ごとの独自の様式と、「お墓」が併存するようになったのである。これには、土葬から火葬に転換させる(衛生上問題があるからなのだが)行政の施策や、葬儀屋のパターン化された葬式などの影響が大きいという。つまり、ここでも仏教は祭祀を左右する要素ではない。
 つい「伝統」と思い込んでしまっていたことが、実はそうではなかったということは意外に多いのだが、「お墓」もそうだったとは知らなかった。「伝統」とはどういうことか、「お墓」を通じてそのことを考えさせてくれるユニークな一冊である。

(2007年1月21日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る