最新の研究成果を盛り込んで、日本の近現代史をわかりやすく解説した新シリーズの登場である。本巻では「黒船」の登場から西南戦争の終了までがとりあげられている。
本書を読んで特に強く印象に残ったのは、著者が幕末の日本の政治、文化、生活についてかなり高い評価を与えていることである。例えばペリーやハリスとの外交交渉などは、主張すべきところは主張し、漢訳洋書やオランダから得た情報などで世界情勢をつかみ、引きどころをちゃんと心得ている。当時の幕閣の見識を正当に評価し、明治以降に作られた「遅れた江戸時代」のイメージを払拭しようという姿勢が感じられる。
それは、維新政府が引き起こした外交上の問題をとりあげる時にも、その外交姿勢の拙劣さをきっちりと検証していることなどからも読み取れる。
明治政府は富国強兵策を「外敵の脅威」という理由でおしすすめていくわけだが、本書では西欧諸国が日本侵略を企てていたわけでも外国からの圧力が強かったわけでもなかったことを、1年以上も政府の中枢をになう人々が外遊しても平和が保たれていたことなどから立証してみせる。
私自身は、本書を読む前からそういうことは認識していたのだが、本書のおかげでその認識が確かなものになったといえる。おそらく従来の維新史を「常識」としてきた人たちにとっては、新鮮な史観に映ることだろう。
伝統だの愛国だのを大上段からふりかざすならば、本書に書かれているようなことくらいは「常識」としてとらえておいてほしいものである。なぜならば、平成の現代日本で語られる「伝統」だの「愛国」だのは、江戸時代に築き上げられた成果を壊して維新政府が新たに作り上げたものに過ぎないのだから。
(2007年1月27日読了)