読書感想文


下流志向 学ばない子どもたち働かない若者たち
内田樹著
講談社
2007年1月30日第1刷
定価1400円

 2000年代の若者たちについて、例えばニートや学級崩壊、教育改革などの事例をもとに、著者が行った講演を質疑応答も含めて書き起こしたもの。講演なので言葉もわかりやすいものが選ばれており、刺激的な解釈をうまく読み手に伝えるというものになっている。
 著者は、小学1年生ですでに「それを勉強して自分に何の役にたつのか」と質問する子どもがいるという例をあげ、なぜ子どもがそのような質問をするようになるのかという理由を考える。
 著者の見解では、子どもがまず最初に社会に接する時に、どのような形からはいるのかで変わってくるということになる。前述のような質問をした子どもは、消費者として初めて社会と向き合う。自分の物差しか彼らは持ち得ず、長期的なスパンで考えるのでなく即時的な交換原理でしか物事をとらえることができない。しかし、生産者(あるいは労働者)として初めて社会と接した子どもたちは(たとえそれが家庭内での手伝いという形であっても)、働くことですぐに何か得られるというものではないという感覚を身につけるというのである。
 教育改革も、今はそういう商業的感覚でとらえられている。教育というものを長いスパンでとらえられないので、「成績」という一目でわかる数字でしかその効果をはかることができないのである。
 「自分さがし」もまたそうである。自分をさがすのであれば自分をよく知る人からの評価を聞くことから始めるべきなのに、自分の物差しを絶対化してしまっているから、自分の事を知る人がいないところで「自分を見つめ直す」という行動に出ることができるのである。
 社会のシステムがアメリカ式になっていないのに、新たな政策や改革などはアメリカ式の考え方をとりいれたものにしている。その矛盾が根底にあるのではないかという著者の意見に大きく共感した。高校生まではまだまだ社会が狭い。見識もない。であるにもかかわらず、将来の事までその時期に自己決定させ、挫折しても本人の責任というのなら、教育というものにどれだけの意味があるのだろうか。
 長年大学で教育者として若者に接してきた経験と、文学という「世の中の役にたつかどうかわからないもの」を専攻してきて、かつ合気道などの武道に通じて身体感覚というものを身につけた著者ならではの地に足のついた論理には説得力がある。ユニークではあるが、急所をしっかり押さえた論考である。

(2007年2月3日読了)


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