皇室典範を改定して女系天皇を認めるかどうかという論議は、秋篠宮悠仁親王の誕生で凍結されてしまった。しかし、悠仁親王を立太子するためには実は父親である秋篠宮文仁親王を皇太子とする手続きを経なければならない。「男系皇族」のみが皇位継承できるという現在の皇室典範にのっとると、皇位継承順位からいってそうしなければならないのである。悠仁親王誕生の折、そのことをちゃんと報じて「皇室典範」改定論議を中断させてはならないと説いた報道機関はどれだけあっただろうか。
著者は元朝日新聞学芸部の記者で、退社後は「女性天皇論」という著書を刊行している。著者は「男系皇族」のみの皇位継承というシステムが「万世一系」というフィクションをもとにしたものであるとする。それでは「万世一系」は、いつごろ考え出され、どういう経緯で公的なものとなったのか。本書では、「記紀」の読み込みからはじめて、天皇の起源を論じた様々な人々の見解を比較検討し、中世では古代の天皇に対してどのような形の扱いをしてきたか、朱子学と国学の変遷など、歴史的な経緯をていねいに提示している。そして、「万世一系」というフィクションは、明治政府(特に大日本帝国憲法作成者たち)が西洋のキリスト教と対応させるものとして意識的に導入したものであることを指摘する。
明治憲法における天皇の神聖化と立憲主義の矛盾、日本国憲法と戦後の皇室典範の間にある矛盾が、「天皇の戦争責任」や「男系天皇」という決して伝統的とはいえない結果を生むことになってしまったのである。
著者は決して天皇制反対というイデオロギーを持っているわけではない。そのような硬直した思考はとらない。時代に合わせて生き延びてきた「天皇」という存在は、現在もまた皇太子妃のありかたなどで現代という時代を反映させたものになっている。その柔軟性を評価するという考え方を持っている。だからこそ、硬直した「万世一系」論に対して批判的なのであり、冷静な分析ができるのである。
(2007年2月11日読了)