読書感想文


報道被害
梓澤和幸著
岩波新書
2007年1月19日第1刷
定価740円

 著者は弁護士として長年新聞やテレビに報道されたことによって精神的苦痛を受けたり勤務先からの一方的な解雇や風評による社会的地位の損失などの実害をこうむった人々の名誉回復に関する訴訟を担当してきた人物である。
 著者は自分の関わってきた訴訟や「松本サリン事件」などの有名な事件を例にとって、報道による被害の実情を示す。そして、それらはなぜ起きたかを解明し、どうすれば起きずにすんだかを検証し、行政のコントロールする「個人情報保護」の欠点を指摘し、報道はどうあるべきか、人権を守り言論の自由を守るにはどうすればよいかという提言をしている。
 マス・メディアは「第四の権力」とも呼ばれる。個人が発する情報は限られた少数にしか達し得ないが、マスコミの発信する情報は膨大な不特定多数に伝わる。だからこそ、報道機関は一方的に垂れ流される情報(警察の恣意的な発表など)を無批判に垂れ流すのではなく、人権の尊重という観点から公平な取材をおこない、保護すべき情報と公益のためにも伝えなければならない情報を見極めて発表しなければならないのである。
 本書は「報道被害」の実態を伝えながら、「人権」というもののありようや民主主義の本旨とは何かということを読み手につきつける。ドラマチックに描き出すのではなく、ていねいで平易な文章で解説していくのである。いわば「報道被害」についての啓発書、あるいは教科書的な印象を与える。
 昨今、情報番組の捏造事件などテレビの影の部分をあらわにするできごとが次々とあばかれているが、そのような事件も警察情報のみに頼った事件報道なども根は同じだろう。放送の公共性という観点を忘れ、センセーショナリズムにかたよったマスメディアの体質がそれをもたらしているということが、本書を読むとよくわかる。捏造事件のことは何一つ書かれているわけではないのだが、本質をちゃんとおさえているから、マスメディアの問題点そのものを理解できるのである。
 ジャーナリズムとは何かということを考える時に欠かせない一冊である。

(2007年2月15日読了)


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