読書感想文


私の履歴書
魔法のラーメン発明物語
安藤百福著
日本経済新聞社
2002年3月5日第1刷
定価1200円

 先日亡くなった、日清食品創業者にしてインスタントラーメンの父、安藤百福が残した自伝である。インスタントラーメン開発の過程やカップラーメン発明のいきさつなどが克明に記されている。安藤百福の業績について書かれたものは、たいていは本書を底本としていると考えていいだろう。
 興味深いのは、著者がラーメンに取り組むまでの前半生である。なぜラーメンをインスタント食品にしようと考えたのか、インスタントでなければならない理由はなんだったのかが、その前半生から読み取れるように思われるのである。
 原風景としての「終戦直後、一杯のラーメンを求めて屋台に列を作る人々」の姿がラーメン開発に著者を向かわせたというのは、あちらこちらで書かれている。それだけではない。著者は台湾で生まれ育っている。中華料理を食べて大きくなったのである。しかし、戦争のために台湾で起こした事業はすべて失われてしまった。著者が「食」と考えた時に「ラーメン」というアイデアが出たのは、著者の心の奥に残されていた台湾への郷愁も理由の一つではなかったかと思われるのである。
 ただし、自伝だけに無理がある記述もある。チキンラーメンは確かに著者一人で開発したものであるが、カップヌードルの開発や売り込みは著者一人の努力ではなく、NHK「プロジェクトX」でも紹介されたように、若いスタッフたちの苦闘もあったのではなかったか。若いスタッフたちについての記述がまるでなく、カップヌードルの開発まで全て自分一人で手がけたかのように思わせてしまう書き方には、功成り遂げた者がすべての栄誉を自分のものにしてしまっているような感じを受けてしまった。もちろん、メインのアイデアは著者がたてたものであるから、発明者としてたたえるのは間違いではないのだけれど。
 後半は「麺ロードを行く」と題された、ラーメンの源流を求める著者の中国視察の模様が収録されている。ここまでラーメンにこだわる著者の思いというものには感心させられた。
 著者が単なる町の発明家などではなく、優れた経営センスの持ち主であったことがわかる一冊である。そんな著者でも「カップライス」開発では政財界の思惑に乗ってしまい失敗する。消費者の視線で商品開発をしてきた著者でも、目が曇ることがあるというところに、人間の面白さがあるといえるだろう。

(2007年3月1日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る