著者はベテランの相撲記者。読売新聞「大相撲」誌にもスパイスのきいた文章を寄稿している。相撲を愛する気持ちが伝わってくる文章を書く書き手である。
その著者が長い記者生活で見てきた相撲界の実態と、それに基づく提言を綴ったのが本書である。なぜ外国人力士が強いのか、どうすれば日本人のホープがそこに食い込んでいけるのか。第1章では成功した外国人力士たちがいかにハングリーであるか、あるいは相撲に全てを賭けているかを述べる。第2章では力士たち、特に日本出身の若者たちがどのような力士生活を送っているかの実態を記し、第3章から第5章にかけて過去の力士たちのエピソードを綴る中で、それを通して現在の相撲会がはらむ問題を浮かび上がらせる。まとめとなる第6章では、「八百長」なるものは長い記者生活の中でも見聞したことがないと明言した上で、疑いをもたれるような無気力な相撲や半端な相撲をなくしてほしいと提言する。
相撲の伝統を知悉し、人間ドラマとしての大相撲の魅力を伝えるだけでなく、それを踏まえた上で、改めるべきところは改めるようにという意見具申もしている。「ちょっといい話」的なエッセイに終っていないところに本書の価値はあるといえる。相撲協会は週刊誌の興味本位な記事に目くじらをたてるのではなく、こういった書き手の提言に耳を傾けるべきだろう。
(2006年3月26日読了)