精神科の臨床医として、著者は多くの患者の「悩み」に耳を傾けてきた。本書はその著者が特に多いと感じる最近の悩みに共通する事象を例にとり、著者なりの感想を加えて提示したものである。
例示されている「悩み」は、例えば「場の空気を読めなかったらどうしよう」「やりがいが感じられない」「親になったが自信がない」「健康のために何かしないと不安だ」「前向きな気持ちになれない」「自分は何の役にもたっていない」など多くの人に思い当たるであろうものがあげられている。
著者は、これらの「悩み」について、本来ならば悩む必要のないものもあると考える。悩むだけでなく、身近な人に相談したり、しかるべき機関を頼ったりということで解決することもあれば、うまくいっているのにさらに不安の種を見つけて悩むケースもある。
本書を通じて著者は「現代社会の息苦しさ」や「人間関係構築の息苦しさ」というものを読み手に伝えようとしているように思える。人間関係というものは本来もっとおおらかであるはずなのに、社会は悩む人間を自然に助けるようなシステムであったはずなのに、現代日本ではそれが機能していないと感じるのである。そして、現代日本が「老年期」にさしかかっているという指摘をし、その事実に向き合うことから始めねばならないと考えているのである。
本書では、著者は「悩み」の解決には答をあえて出していない。答を出すために、まずその正体を見極めることが必要であり、その正体を探ることによって、読み手が解決方法を考えることを望んでいるのだろう。と、同時に、すぐに解決するような問題ではないと考えているのではないだろうか。とすると、事態は深刻になっているといわねばなるまい。著者の困惑もまた伝わってくるのである。
平易な言葉でわかりやすく伝えられている。しかし、その読みやすさとは対照的に、ここで提示されている「悩み」の正体は、重い。
(2006年4月15日読了)