読書感想文


封印歌謡大全
石橋春海著
三才ブックス
2007年4月15日第1刷
定価1300円

 歌詞に問題があり放送禁止になった歌。時局にあわず歌唱禁止になった歌。歌詞の内容とは関係なく「差別用語」を使用しているとして発売すら自粛されている歌。著作権法上の問題で回収され発売されなくなった歌。歌手が事件を起こし全ての楽曲が発売も放送もされなくなった歌。著者はこれらの歌全てをまとめて「封印歌謡」と呼ぶ。
 本書は、コレクターである著者がそのような封印歌謡の数々を戦前から現代にかけて時系列順に並べて紹介し、それらが封印された理由や経緯をくわしく述べ、それについてコメントを付したものである。
 「放送禁止用語」に対する解釈はいろいろとあるが、著者のスタンスは「歌詞の内容や曲のよさを検討することなく言葉狩り的に封印するのはよくない」というところであり、表現の自由は守られるべきだという姿勢は一貫して崩していない。それは、「れ・い・ぷフィーリング」(小林万里子)で「〈封印〉は勧めないが、筆者が放送局のディレクターなら、彼女の曲は流さないだろう」という書き方をしているところから察せられる。
 発売当時は普通に放送されていた歌が、「差別用語」のため、多くの人が知らぬ間に「封印」されてしまっている。あるいは封印された当時は大騒ぎになったのに、現在ではいつの間にか「復活」していてその時に「封印」したNHKのラジオ番組で流していたりする。その規準のあいまいさに著者は怒っているが、その規準をあんまりはっきり打ち出されると、それこそ言論の自由に抵触してしまうのではないかと思う。あいまいでいい場合もあるのだ。
 〈封印歌謡〉を列記することにより、時代というものと、そして表現の自由とは何かを考えさせる一冊。特に「言葉狩り」の問題に関しては、研究用として「差別用語」のために発行も放送もされないものをまとめたCDを付録にして本書のような著作を発売してみてはどうかとさえ感じた。そんな企画はまず通らないだろうが。しかし、文面で「いい曲だ」と書いてあっても、その曲自体を聞けないもどかしさはあるのだ。それについては著者の言葉を信じるしかないのだから。

(2006年4月21日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る