「笑い」をコンテンツとした事業展開を続け、今や全国規模で芸人という商品を供給しつづける会社、それが吉本興業である。本書はベテランのジャーナリストが各方面に取材をし、吉本興業の全貌を明らかにしようとする試みである。社長へのインタビュー、主要な吉本芸人が売れていった概略、吉本興業の簡単な歩みなどを付し、吉本興業という会社についてさほど知らない人にもよくわかるように書かれている。
ただ、一読して感じたのは、なにか吉本の広報みたいな内容のものだということだ。著者は様々な分野を題材にタイムリーな企画を打つ書き手で、私は政治家に関するノンフィクションを何冊か読んだことがあるのだが、いずれも不偏不党といえば聞こえはいいが、取材した内容を物語風に構築するだけで、自分自身の主張というものをしないタイプの書き手だというイメージがある。本書にもそれは共通するところではないか。
題材として、今注目すべきだから書いたという印象を受けるのは、例えば桂三枝がプロとして初めて高座にかけた落語を「身売り屋」と書いてしまったり、NHKラジオ「上方演芸会」を「上方演芸館」と書いてしまったりしているところからうかがえる。笑芸についての興味があれば、こういうミスはしないのではないか。
著者の主張や、取材対象に対する思い入れが伝わってこない分、内容については掘り下げ方が甘いように感じるのは私だけだろうか。だいたいタイトル自体、なにか吉本興業に対する一面的な見方しか感じられないようなものであるように感じられるのである。
(2006年4月29日読了)