読書感想文


吉本興業の正体
増田晶文著
草思社
2007年4月16日第1刷
定価1900円

 「笑い」というソフトウェアを武器に様々な媒体に進出する企業、吉本興業。演芸場からテレビ、そしてインターネットに携帯電話と配信メディアを次々と増やしながら、大阪から日本全国に、そしてアジアやアメリカにまでその進出ぶりは目覚ましい。
 しかし、その本質は明治末期に吉本泰三・せい夫妻が寄席経営に手をつけた時と変わっていないのではないか。著者は吉本興業の歴史を丹念に掘り下げ、現在の吉野社長、大崎副社長、特別顧問の笑福亭仁鶴、中田カウス(取材当時)をはじめとして、テレビ局関係者や吉本と提携した東電、インテルの担当者など多様な人物たちから取材をし、その本質を探っていく。
 中田カウスの言葉「合法的な人身売買、テキヤ稼業の巨大化したもん」を鍵に、著者は吉本興業のもつ体質というものをえぐり出していく。ここで注目すべきは、中田カウスという芸人の持つ独特の凄味を著者が逃していないことである。本書発行後、週刊現代と週刊新潮を舞台に吉本興業の内紛が表に出るという事態になったが、そこで槍玉にあげられた中田カウスの発信する昔ながらの芸人臭は、本書でも著者のアンテナに常にひっかかっている。「お笑いタレント」たちに「芸人」のDNAを注入するため、カウスは東京本部に呼ばれて養成所で講師をしたりしているのである。これは例えばカウスの背景に暴力団がいるとかいないとかいうレベルの問題ではない。「芸人」の裏表を体の中にしみこませた存在なのだという認識が吉本興業の社員たちの間にもあるのだろう。もっとも、著者の取材に対してカウスはなぜか自分が中田ダイマル・ラケットの直弟子であるように発言しているので、カウスの発言全体に万全の信頼をおけないという気はするのだが(カウスは上方柳次の弟子を経て中田キップ・チャックに入門していたはずで、ダイ・ラケからは孫弟子にあたるのではないか)。
 吉本興業の「標準語は大阪弁」「舞台が基本」「会社として芸人のプロデュースはしない」というような特徴を的確につかみ、批判すべきところは批判しつつ、この「けったいな会社」の正体に迫る著者の筆致には、なにか執念ともいうべきものすら感じさせる。演芸ファンならずともぜひ読んでいただきたい。

(2006年5月6日読了)


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