著者は戦時中は円谷英二のもとで特殊技術撮影を学び、終戦直後は赤本マンガ時代から月刊漫画雑誌全盛時の売れっ子漫画家としてその名をはせ、週刊漫画誌時代になるとピープロダクションをたちあげてアニメや特撮番組を次々と製作していった稀代の人物である。特に円谷英二と手塚治虫の両者と深い親交を結んでいたという点では、非常に貴重な人物だったといえるだろう。
本書はそんな著者が死の直前になってやっと脱稿できた手塚治虫との交友を綴ったものを、没後3年、編集担当者の努力でとうとう刊行されたという貴重な手記である。
本書で描かれる手塚は「漫画の神様」ではなく、大阪から東京に打って出る若い才能であり、古くからの漫画家たちから相手にされずストレスをためたり、原稿に息詰まって著者と友に映画に逃避する若者であったりする。人間手塚治虫の等身大の人物像を活写するという、著者でなければ残せなかった貴重な証言である。
さらに、戦後の悪書追放運動の実態やテレビ草創期のアニメや特撮の製作に関する事情が丹念に描かれている点にも注目したい。漫画とテレビ番組という分野で確固たる業績をあげた著者が、最後に残した貴重な証言として、本書は今後戦後漫画史をまとめる際にはとても重要な参考文献となるだろう。
(2007年6月9日読了)