仏文学者で、独特の視点から社会を見た教育論などで人気のある著者が、中国という国について考察した。反日運動はなぜ起きたのか。中台問題はなぜあいまいなままでいつまでも解決しないのか。環境問題について中国政府がなぜ動こうとしないのか。文化大革命はなぜ起こされたのか。
中華思想と近代ヨーロッパの帝国主義的思想を比較し、影響は与えるが支配はしない中華思想と征服し支配するヨーロッパ文花の違いを明らかにした上で、現代中国の抱える問題の根がそのような文化背景の差異からくるものだと解読していく論の展開には目からウロコが落ちる思いがした。
つまり、まず結論ありきではなく、現状と歴史的背景を中立的な視点で分析しているから、論の立て方に無理がない。結論を最初から用意しているものはたいていどこかにこじつけやひずみが見られるものだ。
たとえ中国問題の専門家でなくとも、報道や書物から誰でも得られる知識や情報を手がかりに、確固たる視点をもって論じたら、より明晰な解答が得られるのである。
ただ、そのような確固たる視点を自分のものにするというのは簡単にはいかない。著者の凄味はそこにある。
(2007年6月10日読了)