著者は古本蒐集家としても、またシャーロキアンとしても、日本でも指折りの人物である。その著者が、古書店や古本市で探し出し、あるいは偶然見つけ出したホームズ関連の本を楽しく紹介したのが本書である。
ただし、本書で紹介されるものは「関連」などということばですましてしまうことのできない一癖も二癖もあるものばかり。原作を漫画化する際に漫画家が「子どもが読んで楽しいものを」と工夫したばかりにとんでもないものになった作品(「ワイルド7」の望月三起也と「戦国自衛隊」の田辺節雄が書いたものにはなんとワトソンが出てこずに少年が代理をしている。その理由はワトソン医師が急病になったため!)やら、ホームズの原典とは何のかかわりもないゲームブック(選択肢を誤るとホームズが死んでしまう!)やら、中学生向けの学習雑誌のホームズ特集(「一億人の妹」と呼ばれていたころの大場久美子がホームズのコスチュームで表紙を飾っている!)やら、果てはパソコン用のエロゲーに本邦初の「シャーロック・ホームズの冒険」全訳版、そして第一作「緋色の研究」が掲載された雑誌(ただし著者の所有物ではないけれど)まで、まあよくもここまで集めたものよと感心するのみだ。
本書を読んで感じるのは、「シャーロック・ホームズ」という存在が紡ぎだすイメージの豊富さである。ホームズ・ファンだけでなく、ただなんとなく知っているという人たちまでが「名探偵」といえばホームズと認識しているわけであり、それら様々な人たちの想像力によってホームズは千変万化するのである。それでもホームズのイメージが著しく損なわれないのは、その原典に描かれたホームズというキャラクターのもつ大きな魅力ゆえだろう。
紹介された本を入手するまでの著者のエピソードは古本蒐集愛好家だけではなく、何かを集めたりしている人なら誰しも共感できるものばかり。実に、実に楽しいホームズ古本エッセイ集である。
(2007年8月23日読了)