読書感想文


笑えるクラシック 不真面目な名曲案内
樋口裕一著
幻冬社新書
2007年7月30日第1刷
定価720円

 多くのクラシックファンが名曲とたたえるラヴェル「ボレロ」やベートーヴェン「交響曲第9番”合唱”」などは、実は作曲家が意図してそれまでの音楽の概念をぶち壊しにかかった「笑えるクラシック」なのだ。R・シュトラウス「英雄の生涯」、ショスタコーヴィチ「交響曲第7番”レニングラード”」などを俎上に乗せ、クラシックを楽しく聞いてもらおうと、著者は従来とは違う解釈を披露する。
 「ボレロ」がふざけた難曲であることは、聞き込んでいるクラシックファンにはわかること。「第九」の第4楽章がそれまでの3楽章を否定して能天気に「喜べ喜べ」とはやしたてていることや、「英雄の生涯」の「英雄」が作曲者自身をアイロニックに笑い飛ばした曲というのもよく知られたところであるし、「レニングラード」は「アリナミンV」の「ちーちんぷいぷい」のCMのおかげでそのふざけた曲調が多くの人々に理解された。つまり、本書は最近クラシックを聞き始めた人たちに、クラシックは何も全て厳かに聞かなくてもよいのですよと紹介する本である。しかも「笑えるクラシック」としてくわしく紹介しているのは実は上記4曲くらいで、あとはコミカルなテーマのオペラの紹介にほとんどの紙幅を費やしている。ここで紹介されたオペラが「笑い」を含んでいることは、オペラファンなら当然知っていることで、これもまた初心者向けに「親しみやすいクラシック」を聞いてほしいという著者の思いが書かせたものといっていいだろう。第三部で紹介されている曲にはモーツァルト「音楽の冗談」などという意図的にふざけて作ったものまで紹介しているけれど、わざわざ紹介するまでもなかろうに。
 他にも「笑えるクラシック」はいくつでもある。ベートーヴェンの交響曲なら「第8番」がそうだし、あの超有名曲「第5番”運命”」もショルティあたりの意味を排した演奏で聞くとベートーヴェンが遊びで作ったように聞こえる。チャイコフスキーの「交響曲第6番”悲愴”」などはバーンスタインの再晩年の演奏だと躁鬱症の戯画みたいに聞くことができるし、ブラームスの「交響曲第1番」はアンセルメあたりのクールな指揮者の録音で聞くとむやみに肩に力の入った仰々しい音楽が淡々と演奏されていて笑いを呼び起こすこと間違いなしだ。
 残念ながら著者はそういうシニカルで嫌らしい楽しみ方はできない人らしい。サブタイトルに「不真面目な名曲案内」とあるが、いやいや実にくそまじめな名曲紹介である。許光俊あたりの底意地の悪い紹介の方がよほど人を食っている。著者こそがクラシックを厳かに有り難がって聞く人なのであるのだなあ。
 というわけで、クラシックを聞き始めたばかりの有り難がるファンという者がいるとしたら、そういう人に進めたい。ただ、「のだめカンタービレ」で音楽を楽しく聞こうというメッセージを受けてクラシックを聞き始めた人たちには不要な一冊かもしれない。

(2007年8月29日読了)


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