吉野作造賞受賞作品。読売新聞社発刊の「20世紀の日本」第三巻として刊行されたものだが、単独の著作としての評価を得たものである。
敗戦を引き受けた鈴木貫太郎内閣のあとを受けて組閣の大命が降下されたのは日本の憲政史上唯一の皇族首相となった東久邇宮稔彦であった。東久邇宮の使命は、米軍が占領しにやってきた時に陸軍が暴発する恐れがあり、陸軍の将でもあった東久邇宮を皇族という立場をも活用して抑え切ることであった。そして、東久邇宮はそれを完遂する。しかし、政治的には無力であった東久邇宮は戦後も政治的指導者として活躍しようとする近衛文麿の動きを抑え切れず、ついに総辞職する。占領軍と良好な関係を築き協調して戦後日本を建て直せるのは、戦前に協調外交をすすめた幣原喜重郎をおいてないと判断したのは吉田茂外相だった。幣原は当初は頑強に断わるが、昭和天皇自らの下命を受け、首相の任につく。新憲法を制定するにあたり、幣原はマッカーサー元帥と良好な関係を結び、新憲法に「平和主義」を盛り込む役割を果たす。しかし、政党政治復活の前に、政略家ではない幣原は多数党の党首となることができず、総辞職を余儀無くされる。与党党首の鳩山一郎が米軍民政局の策謀により公職追放となったその時、とうとう吉田茂に主役の座が与えられることになる。片山哲社会党内閣、芦田均民主党内閣は寄り合い所帯の連立政権であることの弱点をさらけ出し、再び吉田に日本を任せることになる。野に下っていた間に力を蓄えた吉田は大局を見極めてついに独立を勝ち取ることになる。
戦後史を描いた研究ではたいていGHQの指令のままに動いたことにされてしまう東久邇宮稔彦と幣原喜重郎の両首相に対して、新たな視点から評価を加え、戦後の占領期を乗り切った功労者としての評価を与えているという点が本書の特徴といえる。それに対し、リーダーシップを持ち得なかった片山哲と芦田均に対しての著者の視線はいくぶん冷ややかである。
著者は決して吉田茂を持ち上げたりはしない。しかし、東久邇宮稔彦と幣原喜重郎を正面に押し出して日本の独立性を維持せしめたのは、外相としてGHQと渡り合った吉田茂その人だったことは確かである。彼らを中心とした人間関係を重視して、大局としての政策と現実面での政略をそこからあぶり出していく著者の手法は、研究書としてだけではなく、良質のドラマとしても読者をひきつけていく。
安倍晋三首相が脱却を試みようとした「戦後レジーム」とは、具体的にどういうものであったかを克明に説いた本書は、占領期という混乱の時期に指導者たちがどのように動いたか、そして政治のあるべき姿とは何かを示してくれるのである。
(2007年9月4日読了)