著者は「ダ・カーポ」誌で「くらいまっくす」というページを担当し続けている。これは官能小説のクライマックスシーンを抜粋して一言コメントをつけるというもので、長年にわたって官能小説を読み続けてきたその道の第一人者といえるだろう。
そんな著者が、官能小説で使われる様々な表現を分類し、例示し、官能小説がいかに豊富な表現で男女の秘め事を書き表してきたかを示したものである。さらに、官能小説の書き手を目指す人に対しては「官能小説の書き方十カ条」を示し、文学的には完全に黙殺されている官能小説の世界に光を当てている。
著者は決して官能小説を優れた文学と主張しているわけではない。しかし、優れた官能小説は表現やストーリーにも工夫がこらされ、作家たちが腕を競っていることを知らしめたかったのだろうと思われる。
とにかく真面目に、ひたすら真剣に官能小説の表現世界をまとめあげている。ただ、真剣すぎるのも考えもので、著者が選び抜いて引用した表現は、その断片だけを読んでいると、なにやら笑いを誘ってしまうのだ。誇張された表現や比喩は、ストーリーの中にはめ込まれてこそ読み手の性感を刺激するのであって、取り出された表現それ事態が読み手に興奮をもたらすものではないのである。
そういう意味では、官能小説もまた読み手のイマジネーションに働きかけるという意味で、優れたエンターテインメントなのだということが、本書では逆説的に示されているといっていいだろう。
官能小説に限らず、作家を志している人にぜひお薦めしたい。小説の世界の広さというものを感じ、表現を工夫するということの奥深さを学ぶには絶好の一冊なのである。
(2007年9月25日読了)