著者は大阪芸大で非常勤講師をつとめ、日本笑い学会に所属する演芸ライターである。
本書は「M−1グランプリ」「R−1ぐらんぷり」に出演した芸人の芸への批評、現在注目されている芸人に対する寸評、『上方芸能』に掲載された演芸時評をまとめたものである。
タイトルを「お笑い通」とするだけあって、芸に対する造詣の深さには感心させられる。ただ、全体に芸に対する批評の姿勢は甘く、もう少し厳しい目があってもいいのではないかと思うところもあるのだが、これは書き手のスタンスの問題だから、著者はおそらく戦略的にそういう立場をとっているのだと考えたい。
実際、現場をこれだけ見ているのだから、つまらない芸に対して言いたいことはきっとたくさんあるだろうし、なければそれは嘘だろう。それをあえて悪く書かないというところは本書の見識の一つとして見るべきだと思う。
そういった点を踏まえて、あえて本書の難点を示すとしたら、編集の問題であろう。一冊の本として読む上で、読み辛い構成になっているのである。私が編集者ならば、例えば「グランプリ」批評と芸人寸評の間にそれに関する時評をひとつはさみ、スムーズに読み進められるようにするだろう。第一部、第二部、第三部とわけ、執筆順にただ並べただけという印象が残るのはいただけない。
さらに著者の文章力の限界というものも失礼ながら感じてしまった。それは著者も感じているのだろう、わかりやすくするために2人の対話という形で批評を進めていったりもしているのだが、その2人がどういう設定の2人なのかまるでわからないので、対話形式にした効果がないように思われる。メモ書きをそのまま並べただけというものもあれば、チャートを使ってむやみに細かく分析したものもある。統一性がないので、読み辛いのだ。
内容的には現時点での漫才やピン芸の状況を記録した貴重なものだけに、編集者がうまくアドバイスして原稿を整理し統一感を持たせるような構成にしていたらと思わずにはいられない。どんなに優れた内容のものであっても、編集という作業によっては未整理で雑然としたものになってしまうのだなあということを実感させる本である。
そんなことを読者に感じさせてはいかんでしょう。
(2008年1月8日読了)