読書感想文


植木等伝「わかっちゃいるけど、やめられない!」
戸井十月著
小学館
2007年12月25日第1刷
定価1400円

 2007年3月に永眠した稀代の喜劇俳優・歌手・ミュージシャンの植木等の生涯を、その死の1年前から密着インタビューしたものを土台にまとめたもの。その少年時代やプロ入りまでの経過、「お呼びギャグ」誕生の真の経緯など、これまでに書かれた植木等に関するノンフィクションでは明らかでなかった事柄が熱い語り口で綴られている。
 小林信彦、青島幸男、山下勝利などによって書かれてきたノンフィクションでは、主としてミュージシャンになって以降のことは詳述されてきた。しかし、出生から大学進学までの生い立ちについては簡単な記述ですまされていた。本書が貴重なのは、その幼少時の体験などを植木等本人の言葉で書き残したところにある。
 本人の言葉が足りないところは、これまでに発表されたノンフィクションを引用し、正確を期するようにしている。そのあたりの姿勢に誠実さが感じられる。
 反面、ミュージシャンとなり売れっ子となって以降の記述についてはこれまでに書かれたもの以上の新発見のようなものは特にないので、熱狂的なクレイジーキャッツファンには食い足りない部分もあるかもしれない。しかし、本書によって植木等の生涯の全貌に初めて触れるというような読者にとっては、細かな部分もていねいにわかりやすく記述されているので本書があれば十分だろう。それ以上知りたい読者には「植木等と藤山寛美」(小林信彦)、「わかっちゃいるけど」(青島幸男)、「ハナ肇とクレージーキャッツ物語」(山下勝利)などをお薦めしたい。
 著者の植木等に対する尊敬の念がよく伝わってくる一冊。巻末に「外伝」としてそえられた稲垣次郎、谷啓、小松政夫へのインタビューも興味深い内容である。

(2008年1月9日読了)


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