2007年4月より、「障害児教育」は「特別支援教育」へと変わった。法的な「障害」の意味づけが変更されたのである。それまでは「知的障害」「肢体不自由」「視覚障害」「聴覚障害」「病弱」などが障害とされてきて、その範疇に入らないものは「健常」とみなされてきた。しかし、「学習障害(LD)」「多動(ADHD)「高機能自閉」など「公汎性発達障害」も特別に支援を要する生徒として教育指導上の配慮を要するということになった。
本書はこれらの障害について解説したあと、これらの障害に本人や周囲、あるいは社会がどう向き合えばよいのか考察し、現在の教育制度がこれらの障害児教育に対してどのような問題を抱えているかを明らかにする。さらに、「障害者自立支援法」の施行によってどのような悪影響が社会に出た障害児におよんでいるかを指摘し、今後のあるべき障害児教育について考察を進めていく。
障害児教育とは何か、特別支援教育とは何か、新たに障害児と向き合う必要に迫られた人にとってこれほどよい手引きはないと思う。現在、国際的に定義されている「障害」の概念を難解な専門用語はほとんど使わずに説明できているというところが本書を最良の手引きたらしめているといっていい。
また、ある程度経験を積んで障害児と接している人にとっても、最新の状況を理解するのにはうってつけであると思うし、本書を土台にもう一度障害児教育について考えてみるきっかけとなるものだと思う。
私は10年ほど障害児教育にかかわってきて、研修のためにさまざまな文献をあたってきた。だからこそ、事の本質を的確に指し示す研究書が必要であると考えていた。本書では障害とは本人のできないところを指すのではなく、できないところを補う社会資本が整備されていないのが「障害」の原因であるということが実例をあげて示されており、無理解な人々の偏見によってせっかく現場の教師が工夫して作り上げた教材などまでが否定されてしまう様子などは怒りを通り越してあきれてしまうほどのインパクトを私に与えた。
障害児教育は教育の原点であると私はかつて先輩の教師から言われたことがある。私はその言葉に無条件で賛同はしないけれど、原点のひとつであるということは養護学校から高等学校に転勤したことによって実感することができた。そう考えると、本書は「障害者」を「障害者」たらしめているものの正体を明確にし、教育そのものをとらえなおすのにうってつけな一冊であると断言できるのである。
(2008年1月10日読了)