ぼやき日記


11月11日(日)

 なんとか原稿を脱稿。今月限りで「S−Fマガジン」のレギュラー書評は終了。若手にバトンタッチすることになった。まる8年、隔月連載とはいえよう続いたものである。何か肩の荷が下りたような気分。まあまだ「SFが読みたい2002年版」の総括原稿が残ってはいるけれどね。自分なりにやるべきことはやったとは思うている。
 今後は書評は今のところbk1だけということになる。それ以外の仕事は特には入ってへんので、お仕事をお申しつけ下さればなんぼでもやります。今後もひとつよろしくお願いします。
 そやけど、これだけ書評家としてもの書きの仕事を続けることになるとは思うてもみませなんだな。最初に「SFアドベンチャー」で書評の担当をしたときはわずか1年で首を切られただけに、「S−Fマガジン」でもわりと早く次の人と交代することになると思うてた。辛抱強く起用し続けてくれはった塩澤編集長に感謝せないかんね。
 さて、今後ですけどね、私は「書評家」以外にも「童話作家」なる肩書きも持ってたりするわけやから、しばらくお休みしていた「お話作り」も再開させたいというように思うている。というか、自分が目指していたのは創作者としての文筆業やしね。批評家としてコンピュータに向かうときと創作者としてコンピュータに向かうときは意識的にスイッチを切り替えんとあかん。人格を変えんと書かれへんのやね。
 これが教師やったら校門を出たらすぐにスイッチが切り替わって個人としての「喜多哲士」になれる。そやけど「もの書き」という実作業がいっしょの場合はそうかんたんには切り替えられへん。また新たにレギュラーの書評でも入ったら別やけれど、そうでなかったらなるべくものを書くときの心構えは「創作者」でありたいと思うてる。
 ま、ともかくなんとか一つの仕事はやり遂げた。気持ちはもう次のステップにいっている。まだ公開段階にないけれど、ひとつ進めている計画もある。さあさあ、勝負はこれからやでえ。

11月12日(月)

 杉浦忠さんの訃報に接する。享年66。死因は急性心筋梗塞。あまりにも早すぎる死に驚いている。
 杉浦さんは元南海ホークスのエースで、日本シリーズでジャイアンツ相手に4連投4連勝した人やとか、美しいアンダースローの投球フォームやったとかそういうことは知識としては知っている。そやけど、私の年ではそれは伝説みたいなもんです。リアルタイムでは知りません。
 それよりも私の印象に残っているのは「南海ホークス」最後の監督としての杉浦さんやね。物静かな雰囲気やのにドカベン香川捕手を大胆にも三塁手にコンバートするという恐ろしいことを平気でやってのける人物でありました。あれは他の監督には真似でけへんかったことやろうね。あのときも表情を変えず当たり前のような顔をしていたな。そして、南海電鉄がホークスをダイエーに譲渡することが決まり、大阪球場で最終戦があったときの監督も杉浦さんやった。いろいろと辛かったのに違いないのに、あくまでも明るい表情を崩さずに「ではみなさん、いってきます!」とスピーチしたあの様子はテレビを通じてやったけれど杉浦さんのダンディズムというものを感じさせずにはいられへんかった。そしてマスターリーグの遠征先での急死。前日には普段と変わらずにグラスを傾けて野球談義をしていたという。その散り際も杉浦さんのダンディズムやったんやろうか。
 ホークスが九州に行き、大阪球場が住宅展示場になり、鶴岡親分が亡くなり、そしてエースの杉浦さんが亡くなった。これでまたひとつ、「南海ホークス」が遠くなっていく。
 謹んで哀悼の意を表します。
 ところで鶴岡さんの葬儀に顔を出さへんかった野村克也タイガース監督は、今度はちゃんと葬儀に参列するんでしょうな。もし参列したらかつての同僚たちから冷ややかな視線を受けるかもしれへんけれど、それに耐えて参列してほしい。野村さんを人として尊敬できるかどうかの分かれ目がそこにあるのと違うやろうか。

11月13日(火)

 アフガニスタンの首都カブールからタリバン軍が脱出し、北部同盟軍が首都を制圧したという報道を見る。なんやこれ内戦やんか。米軍のテロに対する報復がこないなってしもうたというわけやね。タリバン軍がこのままで終わるわけはないやろうし、一気に北部同盟がアフガン全土を制圧するということは考えにくい。となると、これ、アフガンを南北に分けたまま膠着状態が続くことも予想される。むろん、北部同盟のバックにはアメリカがいる。
 これ、ベトナム戦争の再来になったみたいな感じやないか。図式は違うけど、20世紀に行われた愚行を21世紀になったとたんに再現してるような感じやね。東西問題が南北問題にかわっていたり、イデオロギーが宗教にかわっていたりという違いはあるけど。
 このまま国境線が引かれて「北アフガン」と「南アフガン」になったりするんやろうか。いくらなんでもこれでは20世紀のカリカチュアやないか。
 アメリカでは「実は本当はゴアが大統領に当選していた」てな報道やら「航空機がニューヨークに墜落」てなことも報道されている。タイミング揃い過ぎやね。ここで選挙結果の見直しが行われてブッシュが大統領を失格になったら、やとか、墜落した航空機もテロの一環やったてなことになったらますます情勢は混沌としてくるぞ。
 もうなにがなにやら。ニュースでアフガンの人が「こうなったら国連に仲裁してもらい解決を図ってほしい」と言うていたけど、確かにそれが最善の方法というように思う。このままアメリカが北部同盟の後押しを続け内戦が長引いたら、アメリカの行為は内政干渉と非難されるやろうしね。ほんまにこの先どないなるんやろ。1年後には世界全体が……いや、悪い想像はしたくない。ブッシュJr.はどう決着をつける気なんや。

11月14日(水)

 本日発売の「週刊ベースボール」で千葉マリンスタジアムの場内アナウンス係(いわゆる”ウグイス嬢”)の谷保恵美さんへのインタビュー記事が掲載されている。これを読んで初めて知ったんやけれど、場内アナウンス係になるのもなかなか難関なんですね。
 特に甲子園球場はかなりハードルが高いみたいやね。記事から引用すると「関西出身、高卒、阪神電鉄に入社後、運がよければ球場に配属される」という。今はどうかは知らんけれど、谷保さんが問い合わせた10年前はそうやったそうだ。つまり、甲子園で高校野球の”ウグイス嬢”をしたい人は短大にも進学でけへんということか。これ、高卒以上の間違いと違うかな。そんな気がするけど、実際はどうやねんやろう。直接問い合わせて調べるのは面倒なんでやらへんけど、「運がよければ」というところが凄いな。どんなに憧れていても運がなければその仕事にはつかれへんというのは、まあどんな仕事でもそうやねんけど。
 この谷保さんはとにかく場内アナウンスがしたくてロッテオリオンズの事務職につき、運よく空きができて現職につかはったということです。執念としかいいようがない。もっとも、まあほんまにしたい仕事やったらそれくらいの執念がないとその職にはつかれへんやろうとは思う。私にしたところで教職採用試験を受けること7回、30才にしてなんとか合格したんやからね。人間、あきらめたらあかんということですな。
 それにしても甲子園の場内アナウンス係の採用条件は厳しいな。関西以外の人はなられへんのやもん。どうしても甲子園のアナウンスをしたいと思うたらそんな壁があるやなんてね。親に「どうしてお父さんは先祖代々の江戸っ子なの!」と詰め寄る女の子、なんて光景が浮かんでしもうた。「ンなこと言われたって、しょうがねぇやな」と困り果てたお父さんってぇのも、気の毒でしょうがねぇや。

11月15日(木)

 落語と狂言のジョイント企画「お米とお豆腐」を見に「ワッハ上方」へ行く。出演は狂言が茂山千五郎さん、茂山七五三さん、茂山あきらさん。大蔵流の「お豆腐狂言」の面々です。落語は桂吉朝さん。こちらは米朝一門ですから「お米」なんやろうね。
 出し物は新作狂言の「空桶」(作・小佐田定雄)、落語「蛸芝居」、狂言「蝸牛」。
 「空桶」は、歌好きの男が誰はばかることなく練習をできる店があるときいて道頓堀に行けば女主人が待ち受けていて、空の桶のフタをあけると歌の魂が出てきて歌に興じることができるという話。女主人と男がデュエットを楽しんでいると男の妻が現れて女主人と歌比べをし、意気投合してしまい、男は独り取り残されてしまう。現代風俗を室町時代風に置き換えたユニークな作品で、現代の歌謡曲の歌詞を狂言の言い回しに変えたりと細かなところで笑わせてくれる。
 「蛸芝居」は芝居の仕草などで笑わせる噺なんで、これは一度生で見てみたいと思うていた。テレビで文枝師匠の高座を見たことはあるけど、やはり生で見た方がよろしいな。吉朝師匠の熱演で実に盛り上がった。
 「蝸牛」は子どもの頃これもテレビで見たことがある。そのときの山伏役は茂山千作さん(当時は千五郎)やった。意地悪く太郎冠者をからかう山伏の笑い声が子ども心に焼きついていたものです。今回は千五郎さんの山伏。意地悪いというよりも無邪気な悪戯という感じがして、これも悪くない。
 いわば上方の古典芸能の良質な部分を見せてもろうたという感じ。学校の仕事が忙しくてちょっと気分がささくれだってただけに、リラックスして笑わせてもろうた。ほんまに、笑芸はええ。かなりリフレッシュしたぞ。
 「お米とお豆腐」はこれが第2回ということやけれど、第3回があればぜひまた行きたい。
 狂言の人気もあって若い女性の観客がほんまに多かった。老若男女を惹きつけるだけの魅力は、確かにあるね。

11月16日(金)

 北野勇作さんが所属する劇団「虚航船団パラメトリックオーケストラ」の11月公演を見に行く。だしものは「男大学」という寸劇がふんだんに入った楽しいもの。風俗店で順番待ちをする男の様子と、男の体内から発射されようとしている精子のY染色体が生き残りを賭けて特訓をするストーリーかからみ、そのあいまあいまに「男らしいとはどういうことか」をユーモラスに描いた寸劇が挟まるという構成。今日が初日ということもあり、寸劇の部分はちょっと長いかなと思われるところもあったけれど、精子たちの奮闘ぶりがナンセンスに描かれていて楽しかった。あれだけ必至に生き残りを賭けた精子たちが風俗店で虚しく放出されるという皮肉な展開も楽しい。精子たちがそれぞれ主張する「男らしさ」が現代の男性像をカリカチュアライズしていて、そのあたりが見どころということになるのだろう。
 北野さんたち男優陣の愛らしい女装姿も見どころ、かな。
 私がこの劇団の公演を見るのは3回目やけれど、これくらいになるとそれぞれの役者さんたちの個性も把握できてくるようになってきたし、その個性にあったキャスティングも楽しみの一つになってきた。楽しい舞台を見せてくれはった「虚航船団パラメトリックオーケストラ」のみなさんに、今回もお礼をいいたい。
 それにしても、昨日は室町時代から残る狂言という演劇と、江戸時代から続く落語という話芸を楽しみ、今日は現代を写し出す小劇団の演劇を楽しんだわけで、600年という時空を越えて、笑芸というものの本質はそう変わるもんやないということを実感させてもろた。2日連続の実演鑑賞でその迫力に当てられて少々疲れ気味やけれど、こういう疲れは快いもんですなあ。
 今日は林譲治さんや平野マドカさんといった旧知の方たちとも客席で出会うたけど、お二方とも明日の「京都SFフェスティバル」に参加しはる。「京フェス」はもう始まっているみたいですな。

 というわけで、明日は「京フェス」合宿参加。私の合宿自主企画「喜多哲士の名盤アワー」も行う予定。で、次回更新予定は日曜深夜です。その日曜には「たちよみの会」もあり、徹夜明けで眠た目をこすって実施しますので、そちらのご参加もよろしくお願いします。

11月19日(月)

 昨日予定していた日記更新やったけど、帰宅してから原稿書き直しをしたりしてたらとてもホームページにまで手が回らへんかった。予定より1日遅れであります。もし楽しみにしてくれたはる方がいてはったら、悪いことをした。いやもう疲れ疲れてまだ眠い。ほんまに徹夜のきかん年齢になってきたなあ。

 で、今年の「京都SFフェスティバル」ですが、とても楽しかった。自分の合宿自主企画があったということもあるけど、どの話も面白かったし、今まで話をしたことのなかった方とも話ができたし、久しぶりに会う人とも話ができたし。ほんまに楽しかった。
 これで「京フェス」のレポートを終わります。では愛想がないな。まだ眠いんで克明なレポートはよう書かんけど、今日からしばらくはざっとあらましだけご紹介しようと思う。
 11月17日、11時になる少し前に会場に入る。手続きをすまして中に入ると林譲治さんがいてはったんで、その横にお邪魔する。古沢嘉通さんの製作したファンジン「Review IKA」を購入。中のレイアウトをわざと「S−Fマガジン」の「SFスキャナー」とよく似たものにしているあたりが楽しい。
 まず最初の企画は海外SFパネルで「あの人は今……」。かつて日本でよくその作品が翻訳されていたのに、最近ではあんまり新作が翻訳されてへん作家の近況を大野万紀さん、加藤逸人さん、山岸真さんが紹介する、という楽しい企画。シルヴァーバーグ、ル=グイン、シェクリィ、ヴァンス、ディレイニー、エリスン、ディッシュ、ムアコック、M・ジョン・ハリスン、コーニイ、ウィルヘルム、プリースト、ワトスン、ベイリー、ヴァーリイ、マーティン、パワーズ、イアン・マクドナルド、エフィンジャー、ウィリアムスンといった名前があがる。ウィリアムスンがまだ現役とは驚いたなあ。会場からもリクエストが募られてヌーンの近況が紹介された。ちなみに私もウィングローブの近況をたずねたんやけれど、わからへんということ。残念です。司会はかつきよしひろさん。「たちよみの会」のメンバーでもあるかつきさんの、これがコンベンション初ゲストやと思う。大先輩たちを向こうにまわしてみごとに落ち着いた司会ぶりを見せてくれた。こうやって若い人がどんどん出てきてくれるとジャンルが活性化するわけで、ほんまに嬉しい。この企画で何が楽しかったかというとこのかつきさんの司会ぶりやったかもしれへんね。企画の終り際には私の妻もなんとか間に合って入場、かつきくんの司会する企画に間に合うてよかったとほっとしておりました。
 眠くてたまらんので昼食以降についてはまた明日。

11月20日(火)

 今日もまだ眠いです。疲れが全然とれへん。だいぶ弱っておるなあ。

 さて昨日の続き。1番目の企画が終わったんで、昼食をとろうと妻とともにロビーに。誰といっしょに昼食をとると決めることもなくぞろぞろと会場を出る。10人以上が一団となって空いている店を探すわけやけれど、まあそう簡単には見つからん。150人くらい参加している人たち全てが昼食をとりにいくわけですからね。やっと喫茶店にはいるけれど、これも結局ふたてに別れて、ということに。毎年昼食では苦労する。あ、夕食でも苦労するか。とにかく熊野神社近辺というのは食事できる店が少ないのですね。
 私の入った方のメンバーは、テルミン奏者の物理学者しお組2番の菊池誠さん、数学系SFファンで折り紙の達人志村弘之さんの昔からおなじみの人たちと、ケダ板常駐者のねこちさんとRYOKUさん、そしてしお組1番の私と私の妻という構成。私はビーフカレーを頼んだが、菊池さんは「まだ安心できない」と牛肉系のものを拒否。そらまあそうやけれど、私はもう今さら警戒してもしかたないから好きなものを食べるということにしてるんで、ビーフカレーでもええのです。あ、他の人もみんな日替わり定食をたのんでるやないか。こうなったら意地でも私はビーフカレー!
 次の企画の打ち合わせがあるという菊池さんは早く食べてしもうて会場に戻る。そのあとしばらくわあわあとおしゃべりしながら食事して、我々も会場に戻る。
 さて午後からの企画が始まったわけですけれど、今日も眠いのでここらで切り上げて続きは明日。あ、昼飯のことしか書いてへんぞ。こんなものを読んでどこがおもろいというのか。しかしもう気力が尽きた。こういうレポートもたまにはよいか。あきませんか。とにかく続きは明日!


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