おどりじいさん


作品解題

 1995年、読み聞かせ童話雑誌「おひさま」(小学館)が新人発掘のために「おひさま大賞」を創設した。
 私は前年度生徒の学習発表会のために劇を創作し、そのストーリーに日の目を見せてやりたいと考え、この賞に応募することにした。しかし、その劇自体はかなり長めのストーリーであったために、規定の応募枚数には収まりきらなかった。
 そこで、どうせ応募するならと新たに書き起こしたのがこの「おどりじいさん」である。
 これは幸い高い評価を得て優秀賞を受賞した。ただし、ページ数の関係から細かな部分を削らなくてはならなかった。
 今回公開するのは、「おひさま」に掲載される前の、応募原稿である。削除された部分は決して冗長なものではなく、賞もこの原稿に対して与えられたと考え、公開することにした。雑誌掲載版と読み比べてもらうのも一興かと思う。


 むかし、ある村に、おどりのうまいじいさんがいた。
 じいさんがおどりだすと、村じゅうのものがみにきた。としよりも、わかものも、こどもも、おとこも、おんなも、だれもがみんなよろこんだ。
 じいさんのおどりは、とりやけもののうごきをまねたかとおもうと、くるくるまわったり、とんだりはねたり、めまぐるしくかわる。
 うごきがかわるたびに、村人たちははくしゅかっさい。おどりがおわると、みんなつぎつぎにごちそうをもってきて、じいさんにふるまった。
 じいさんはごちそうをたべると、すぐにごろりとよこになり、ぐうぐういびきをかいてねてしまう。
 じいさんはねたがさいご、なにがあってもおきなかった。
 あそんでいるこどもがじいさんにけつまずいてもぐうぐうぐう。
 のらいぬがわんわんとみみもとでないてもぐうぐうぐう。
 むらまつりのたいこがなりひびいてもぐうぐうぐう。
 かみなりがなって大雨がふってもぐうぐうぐう。
 おどりをみたい村長が、すもうとりをよんできた。こてなげ、くびなげ、すくいなげ。なんべんじめんにたたきつけても、じいさんはやっぱり、ぐうぐうぐう。
 おなかがすいたらむっくりおきる。
 おきたらいきなりおどりだす。
「おーい、おどりじいさんがおきたぞう」
 それっとばかりに村人たちはあつまって、やんややんやのだいかっさい。
 なんとかじいさんのおどりをみたくって、となり村からも人がくる。
 じいさんはつかれきったらおどりをやめる。どうにかそれにまにあうように、ひっしになってはしってくる。なかにははたけしごとをほったらかして、じいさんがおきるのをまってるものもでるしまつ。

 じいさんのおどりじょうずをききつけて、とのさままでがみたがった。
「そのとしよりをつれてまいれ。おしろのにわでおどらせるのじゃ」
 とのさまのけらいがやってきた。
「やいやい、じいさんや、おきんか」
 もちろん、じいさんはぐうぐうぐう。
 おしてもひいてもたたいても、やっぱり、じいさんはぐうぐうぐう。
 しかたがないのでけらいたちは、じいさんをかついでおしろにはこんでいった。
 おしろのにわで、じいさんはずっとねていた。いつまでたってもおきるようすもない。「なんとかしておこすのじゃ」
 とのさまのめいれいで、けらいたちはあのてこのてでおこしにかかる。
 しまいにはなわでくくってにわのまつの木にぶらさげ、みずをかけたりおゆをかけたりおおさわぎ。
 それでもじいさんは、ぐうぐうぐう。
「ええい。このものをきりころしてしまえ」
 とのさまがおこっていうと、けらいはあわててとめた。
「おとのさま、ころしてしまえばおどりがみられませんぞ」
「ううむ。たしかにそのとおり。わしはおどりがみとうてたまらん。いったいどうすればいいのじゃ」
 ちえのはたらくけらいがいった。
「村長をよびましょう。村のものならおこしかたをしっているにちがいありません」
 さっそく村につかいがいった。
 こまったのは村長だ。じいさんがいつおきるかなんて、じいさん本人にだってわからない。それがわかればとっくにじぶんたちでやっている。
「しかたない。おとのさまをおこらせたら、わしらのいのちもないかもしれん。こうなりゃ、村人みんなでおどってごまかせ」

 村じゅうの、としよりも、わかものも、こどもも、みんなでそろっておしろにおしかけた。
「じいさんをはようおこせ」
 とのさまがいうと、村長は、はいつくばって口からでまかせ、こうこたえた。
「みんなでじいさんをかこんでおどるのです。そうすれば、それにつられてじいさんもおきるんです」
「ならば、はようみなでおどらんか」
 村人たちは、ひっしでおどる。
 じいさんじいさんおきとくれ。こころのなかでいのりながら、てあしがちぎれそうになるまでおどる。
 それでも、じいさんはぐうぐうぐう。
「じいさんはおきんではないか。いったいなにをしておるか」
 とのさまがおこると、村長はおどりながら、いきをきらしていった。
「おそれながら、はあはあ、おどりがたらんのでございます。はあはあ。ごけらいしゅうも、おとのさまも、はあはあ、みんなでおどらんことには、はあはあ」
「なに、わしにもおどれともうすか」
 とのさまも、けらいたちも、めちゃくちゃおどった。
 じいさんのおどりがみたい、ただそれだけのおもいで、むやみやたらにてあしをうごかす。
 そのうち、だんだんつかれてきて、村人のひとりがばったりたおれた。そして、ぐうぐういびきをかいてねむりはじめた。
 みんな、みんな、つかれてしまい、あちらでぐうぐう、こちらでぐうぐう。
「なんじゃなんじゃ。みなのもの、そちたちがねてどうするのじゃ」
 そんなことをいいながら、とのさまもついにはばったりたおれて、ぐうぐうぐう。
 とうとう、しろのにわにいるものみんなが、まくらをならべてぐうぐうぐう。
 あまりのいびきのやかましさで、なんと、おどりじいさんがめをさましてしまった。
「なんじゃいな、村のものから、おしろのごけらいしゅうから、おほほっ、おとのさままでこんなところでねてござる。それにしても、はらがへったわい」
 そういうと、じいさんはむっくりおきあがり、てぶりあしぶりおかしげに、おどりながらしろからでていった。
 とうとう、とのさまはじいさんのおどりをみることができなかったそうな。


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