小学館「おひさま」1998年7月号に掲載された。絵は前作「おどりじいさん」と同じく飯野和好さん。
ここに掲載したものは、私が編集部に最終的に送稿したものである。掲載されたものは、飯野さんの絵に合わせて編集部が一部改竄、「こびと」が「ばけもの」に「もりのもの」が「どうぶつ」に変えられてしまった。字面や言葉の調子を考えて選んだものがかくも安易に変更されてしまうという事実に暗然とした記憶がある。
というわけで、これが改竄される前の、いわば私にとっての決定版である。
あるひ、きこりたちがきをきりにもりにはいったきり、かえってこなくなった。
おにぎりをもっていったかよも、いっしょにいなくなった。
もりのちかくをさがしにいったむらびとが、まっさおなかおでむらにかえってきた。
「ばけものだ。おおきなけだものだ。ばけものがやってくる…。」
そのおとこは、それだけいうときをうしなってしまった。
むらにうわさがながれた。
「きこりたちは、ばけものにされたにちがいないぞ。」
だれも、もりにちかづこうとしなくなった。
やがてよるになると、むらにもりのばけものがやってきて、ねているものをさらっていくようになった。
むらびとたちはこわくてよるもねむれなくなってしまった。
ただひとり、だんまりこぞうだけは、ちがった。
いなくなったかよをさがしに、ひとりもりにはいっていった。
でも、だれもそれにはきがつかなかった。
だんまりこぞうはもりのなかをあるいていた。
すると、あたまのうえからわらいごえがした。
「うわはははははは、ひっく。」
きのうえのふといえだに、みどりいろのこびとがちょこんとすわっている。
こぞうはだまってこびとをみあげた。
「だれをさがしにきたのかしらんが、ひっく。
そいつはもうもりのものになったのさ、ひっく。
おまえももりのものになれ、ひっく。」
こびとはそういうと、てをおおきくまわした。
「ひっく!」
こびとのしゃっくりがもりにおおきくこだました。
こぞうはもんどりうってたおれた。
むくりとおきあがって、びっくり。こぞうはこぐまにかわっていた。
「うわははは、ひっく。
どんなやつがきても、ひっく。
おいらにはかなうもんか。」
こびとは、にいっとわらって、こぞうをみおろした。
「こんどは、こころのなかまでもりのものにかえてやる、ひっく。」
こびとがうでをまわしかけたとき、こぞうはずっとがまんしていたおおごえをだした。
これまででもいちばんおおきなこえだった。
「おかよちゃんをもとにもどせ!。」
こえはもりをこえ、むらをこえ、やまをみっつこえたみやこをこえ、みなとにまでひびいたという。
「ぎゃうーん。」
こびとはびっくりしてきのえだからおっこちた。
こびとのしゃっくりがとまった。
もりのおくから、ばけものたちがぞろぞろやってきた。
こびとは、おええおええとなきだした。
なみだがぽろぽろとこぼれた。
すると、そのなみだがじめんにとどくたびに、ひとりひとりばけものたちはもとのすがたにもどっていく。
こぞうも、こぐまからひとのすがたにもどった。
「おかよちゃん!。」
こぞうは、もとにもどったかよにだきついてはなれなかった。
こびとはぶるぶるふえてちぢこまっていたが、よくみるとそのあしからねっこがはえて、じめんにくいこんでいる。
かよがこびとのあたまをなでた。
こびとのふるえがとまった。そして、こびとはくすのきにすがたをかえた。
それからというもの、こぞうはむらのものからだいじにされ、おおごえをだしていいことになった。
そして、むかしのようにわらったり、ないたりするようになったそうな。
それでも、よるにねごとをいってむらびとをおこしてはおこられたとさ。
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