ここ何年かの間に発表されたショート・ショートをアトランダムに集録した一冊。玉石混交というわけではなく、かなりつぶよりといった印象を受ける。
ショート・ショートというのは書き手にとっては難物である。なにしろ十枚程度の中に一つの世界を構築し、完結させねばならないのである。そういった意味ではこの一冊、最近のショート・ショートの書き手がハイレベルであることを示しているのである。
作品別に見ると、森下一仁「何か驚くようなこと」が小市民的常識にとらわれた男をユーモラスに描いた佳作。夢枕獏「輪廻譚」は仏典の説話風ムードがよい。岬兄悟「ぬいぐるみ男」のナンセンスも光っている。また、吉沢景介「誘惑者」や菊地秀行「花嫁の父」といったノンSFに佳作が目立った。
全体に見て、やはり今売れっ子のノッている書き手は読ませるものを書く。ネーミング一つとっても効果的に使っているのは、地力というものがあるからなのだろう。
なお巻末のエッセイ再録は解せない。一、二巻と同様ショートショートに関する文章を読みたかったなあ。
(「SFアドベンチャー」1986年11月号掲載)