ブック・レヴュー


妖界天女
草川隆著
有楽出版社
1986年7月20日第1刷
定価680円

 裸の女性の絵とその下に『夢に見たセックスが現実に!』とあれば、誰でも「またあのテのか」とうんざりするよね。ところがこの作品は違うのだ。なんとこれ、純愛ものなんです。草川隆といえば長年正統ジュヴナイルを書いてきた人。突然の路線転向とはいかなかったようだ。
 主人公のカップルは出会う前から夢の中で逢う瀬を重ねていて、実際に会った時には既に愛しあっている。女性の方が記憶喪失で、という障害はあるものの、運命を開くために故郷で儀式を行うまで、意外な程にすんなりと話はすすむ。二人が愛しあう事は、運命であり、預言の達成であるし、それを邪魔したい人物がいないのだからどうしようもない。
 つまりこの作品は最近のジュヴナイル以上にジュヴナイル的なのである。謎解きの部分などキリスト宇宙人説やエデンの園の話を用いてまっとうに伝奇SFしているのだが、そこらへんもソツがなさすぎて印象が薄い。これを官能伝奇として売らねばならんのが時勢というものなのだろう。悲しいな。だから、カバーをひっぺがせば純情乙女も赤面せず読めるのです。意味ないことだけどね。

(「SFアドベンチャー」1986年11月号掲載)


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