ブック・レヴュー


産霊山秘録
半村良著

 ヒの一族とは何か。それは、皇室よりも古い血統で、日本の歴史を陰で支えてきた一族である。彼等は空間移動の能力をもち、日本を安寧な状態に保つ役割を果たしてきた。
 戦国時代、ヒの一族は織田信長に乱世をまとめる役割を託すが、ヒの一族が必要以上に政治に介入したときに起こるネの状態に陥ったため、一族である明智光秀は本能寺の変を起こし、その弟天海僧正は徳川幕府を支えることになる。
 ヒの一族の未来を託された飛稚は東京大空襲の時代にタイムスリップし、戦後の日本をヒの力で再建していく。
 時代を超える大きなスケールで描かれた伝奇SFの傑作。
 戦いとは何か、平和とは何かという問いかけがヒの一族の死闘を通じて読者に伝わる。
 ヒの一族という卓抜なアイデアをもとに日本史を独自の解釈で描く。半村伝奇SFの原点である。

(「S−Fマガジン」1998年2月号掲載)

附記
 「S−Fマガジン」通巻500号記念特集で発表された「SFオールタイムベスト」の作品紹介を、という依頼を受けて書いたもの。


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