1 俄−浪華遊侠伝− 司馬遼太郎 講談社文庫
2 悪名 今東光 新潮文庫(絶版)
3 大浪花諸人往来 有明夏夫 角川書店
4 夫婦善哉 織田作之助 講談社文芸文庫
5 ぼんち 山崎豊子 新潮文庫
6 日本三文オペラ 開高健 新潮文庫
7 日本アパッチ族 小松左京 光文社文庫
8 競馬放浪記 新橋遊吉 角川文庫(絶版)
9 とむらい師たち 野坂昭如 国書刊行会
10 道頓堀川 宮本輝 角川文庫・新潮文庫
11 じゃりン子チエ はるき悦巳 双葉文庫
12 浪花少年探偵団 東野圭吾 講談社文庫
13 小梅ちゃんが行く!!
青木光恵 竹書房バンブーコミックス
14 浪速怒り壽司 長谷川憲司 関西書院(絶版)
15 疫病神 黒川博行 新潮文庫
16 ナニワ金融道 青木雄二 講談社漫画文庫
17 姥ざかり 田辺聖子 新潮文庫
18 てんのじ村 難波利三 文春文庫
19 大いなる笑魂 藤本義一 文春文庫(絶版)
20 唐獅子株式会社 小林信彦 新潮文庫
21 梅田地下オデッセイ 堀晃 ハヤカワ文庫JA(絶版)
22 ディープナイトランニング容赦なしっ!
友野詳 角川スニーカーブックス
23 センチュリオン急襲作戦 陰山琢磨 ソノラマ文庫NEXT
24 NANIWA捜神記 栗府二郎 メディアワークス電撃文庫
25 やみなべの陰謀 田中哲弥 メディアワークス電撃文庫
大阪というとどういうイメージがあるんやろうね。例えば合理的、現実的、自由、反権力、情に厚い、がらが悪い、あつかましい、がめつい、お笑い、というところかな。そういうイメージというものは、小説、映画、ドラマ、バラエティあたりから作られてきたんやろうね。
と、いうわけで、ここに挙げた二五冊、果たしてどういうイメージを作っているのか、ざっとご案内といきましょう。
司馬遼太郎は初期作品で、大阪を舞台にした作品をけっこう書いたはんのやけど、1はその集大成みたいな話。江戸時代から大阪は町人の街やったから、お侍がいばっていた江戸文化とはかなり色合いが違う。そこらあたりを小林佐兵衛という侠客を主人公にして柄が悪くあつかましいけど情にもろい大阪人を描いている。大阪で侠客というたら「八尾の朝吉」親分やね。勝新太郎の主演映画でおなじみの人もいたはると思う。2では弱者を守る筋の通った男で、親分は今東光の理想像やと思うねんけどね。自由、反権力の象徴やないかな。
情に厚いというたら3の主人公、海坊主の親方こと赤岩源蔵。明治初期の文明開化の世ならではの犯罪を機転をきかせて解決する。二代目桂枝雀が主演したドラマを思い出しますな。明治はじめの大阪の様子もきっちり書き込まれてて、ええ味を出してる。
戦前までの大阪を代表する文化というたら船場の商家。上方落語でも商家を舞台にした噺が多い。4と5でその文化をたっぷり味わってもらいましょうか。大阪の文学というたら織田作、織田作というたら「夫婦善哉」とこれは相場が決まってる。「おばはん、頼りにしてまっせ」のセリフは森繁久弥主演の映画のオリジナル。そやけど、これほど4のテーマを表現してるセリフはない。ええかげんな柳吉としっかり者のお蝶はん。この図式は漫才の男女コンビの系譜に脈々と受け継がれている。5はその点若旦那の喜久治はしっかりしてる。ちゃんと商売しながら五人も妾をかこうてますのやで。それよりも祖母と母親の二人は商家のしきたりに着物を着せたような人物で、船場文化とはなんやったかということを体現している。
戦後の大阪は闇市、バラックの世界。崩壊した秩序から、たくましい生命力を持った人々が登場する。6の廃墟から鉄くずを拾い集める「大阪アパッチ」たちのたくましさを見てみ。7は「大阪アパッチ」にヒントを得て鉄を食べる「アパッチ」が登場。こちらは自由、反権力を全面に押し出している。8は戦後の復興期が舞台。不良少年正人が馬券で生きていこうと決意するまでを描いた青春小説なんやけど、ケンカよりも女。「岸和田少年愚連隊」(中場利一)につながっていく大阪のやんちゃ者の元祖ということになるかな。ただ、チュンバに比べると正人はかなり虚無的でこれは時代の差やね。ここでもやっぱり男はあかんたれ。
高度経済成長時代に生きる大阪人のえげつなさを描いたのが野坂昭如。「騒動師たち」「エロ事師たち」などあの手この手で自由に生き抜く男たちを描いているが、9は人の死を商売にするしたたかさが当時としてはユニークな短編。経済成長からちょっと落ちこぼれたやるせない男たちを描いたのが10で、一度は捨てた玉突きで息子と対決する喫茶店のマスターの存在感がええなあ。でもやっぱり男はあかんたれ。
ひたすらホルモンを焼きながら情けない父親の身を案じ、元気いっぱい生きていく11のチエちゃんは新世界のアイドルや。出てくるおっさんたちはどいつもこいつもあかんたればっかしですわ。おもろうてやがて哀しき人情劇の最高傑作と違うかな。アニメ化もされて、大阪のテレビ局ではいつでも再放送をしている。12のしのぶセンセは頼りない刑事たちに対し、わんぱく小僧たちとともに難事件を解決する。やっぱり大阪女はたくましい。デザイン会社のOL小梅ちゃんが天然キャラクターでたくましく生き抜いていく、というのが13。大阪四コマ漫画では一番好き。
バブル最盛期になると欲と二人連れみたいな連中が跋扈する。14はそんな時代に取り残されたような生き方の下手な男たちが登場する短編集。バブルが崩壊しても人の欲は変わらへん。15と16は金がらみの人間模様を描いた傑作やけど、どんなに金に汚い汚い連中が出てきても嫌らしいにならへんところが大阪弁の持つ力かな。
大阪の芸人を描いた18と19やけど、18は売れへん芸人の哀感を淡々と描き、19は花菱アチャコという成功した芸人のもがき苦しむ半生をこれでもかこれでもかと描く。
東京の人が大阪を外から見てものすごいパロディ小説に仕立てたのが20。ダーク荒巻の狂的な存在感は圧巻です。
近未来の大阪を舞台にしたSFもけっこう多い。21は梅田の地下街が閉ざされて、そこで生まれる新人類を描いたハードSF。梅田から通天閣までの道中で妖怪たちから逃げ回る22と二足歩行の新兵器がデモンストレーションで大阪の街を暴れ回る23、インターネットの中を跳梁する霊を追いかける探偵が主役の24は脇役で出てくる人物にいかにも大阪人らしいしたたかさがある。きわめつけは25。大阪府知事が独裁する暗黒社会では人々は常にギャグをとばし笑いをとらなんだら反抗分子として抹殺される! 「コテコテギャグの大阪」という固定観念を逆手にとった傑作。
やっぱり、言葉がよろしいな。大阪弁の会話はたとえハードな話やってもそれをつつみこむように和らげてくれる。陰惨な話でもなんか楽しい話に感じられる。
男はあかんたれ。そして女はしっかり者。それでもどっかでバランスをとって生きている。おもろうてやがて哀しき大阪ものの二五冊、一気読みでどないだ。
(「本の雑誌」2000年11月号掲載)
附記
「本の雑誌」の特集「いざ大阪!」でSFにこだわらない大阪本リストとその解説を、という依頼を受けて書いたもの。藤沢恒夫など他にも入れるべき作家はいたのだが、未読で入手不可能だったため、断念。あれこれと異議もあろうが、これは別にベスト25というわけではなく、お薦め25冊であるので、そこらあたりはご寛恕のほどを。こういった企画にはまた挑戦してみたいものだ。これをきっかけにちょっとは仕事の幅が広がればよいのだが。