デビュー作の『レヴァイアサン戦記』を読んだ時は、カリカチュアライズされた架空戦記を書く作家、という認識だった。ところが、並行して『わたしのファルコン』を読むと、その認識が誤りであることに気がついた。
願望充足型の作家なのか、とも思った。美人たちが自衛隊機に乗って大活躍する、それが書きたいがために手の込んだ仕掛けをする、その情熱に圧倒されさえした。単に願望を充足させるだけではなく、それを面白く読ませるテクニックがある。『レヴァイアサン戦記』が完結した時、架空戦記ブームを利用してデビューし、本当に書きたかった怪獣小説として着地させたのには驚かされた。
夏見正隆は、カリカチュアという手法で本質を浮き彫りにしていく。そのための小道具には徹底して凝り、リアリティを感じさせるようにする。他に類を見ないタイプの作家だといえる。
ところが、『海魔の紋章』のようなストレートなジュヴナイルを書くこともできるのだ。どうも一筋縄ではいかない。とはいいながらも、本領を発揮するのはやはりストレートよりも変化球であろう。ただ、これだけ早いストレートも投げられるぞと見せてみたのかもしれない。
マニアックな作家で、カルト的な人気を獲得するタイプの作風だけに、今後も独自のポジションで異彩を放っていくのだろう。こういう曲者が存在することに意義があるのだ。
（「Ｓ−Ｆマガジン」２００１年２月号掲載）
附記
「Ｓ−Ｆマガジン」２１世紀到来記念特大号PART1日本ＳＦ篇で発表された「２１世紀ＳＦのキイパースン」の作家紹介を、という依頼を受けて書いたもの。
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