「ヤングアダルト」というジャンルは、特異なジャンルだと思う。普通、ジャンルというものは、その作品群の内容を総称するものなのに、これは対象となる読者が主体となっているのだから。
その「ヤングアダルト」のアダルト部分について書評を担当することになった。「伝奇バイオレンス」と「戦記シミュレーション」を中心として本を紹介することになる。
この二つのジャンルに共通するのは、新書ノベルズで「ブーム」を作りだしたということである。ま、流行りものなんですな。流行りものの常として粗製乱造されたものも多いが、ブームを作りだした作家たちのものは、無類におもしろい。カタルシスという点ではこれらのジャンルが一番なのではないか。胸がスーッとするんだから、ホント。
しかし、「伝奇バイオレンス」に対する評価は、わりあい低いようである。ポルノ小説まがいというイメージがありはしないか。だが、ポルノ小説にもピンからキリまである。どのジャンルだって同じだ。迫力に満ち、リアリティがあり、しかも壮大なホラを吹いて
いれば、誰も文句は言えまい。でも、一度ついたマイナスイメージは払拭しておきたい。そこで、私は、このジャンルを手垢のついた「伝奇バイオレンス」としてよりも、もう
少し広く「伝奇アクション」としてとらえたいと考えている。過激な暴力やエロスを主としたものから爽快なアクションが売り物の作品まで。もちろん伝奇的な謎が中心となるものも含めるべきだろう。
「伝奇バイオレンス」が一時のブームを抜けて、作品、作家もいくぶん淘汰されるとともに、かえってブームの時以上に読み手の選択の幅は広がっている。良い例が、中国を舞台にしたアクションもので、こちらの書き手は今後ますます充実していくだろう。
その点、「戦記シミュレーション」については、まだ様子見といったところもある。既存の作家たちを起用している段階から、出発点からこのジャンルの書き手として登場する作家が出てきている今、このジャンルが本物になるかどうかの正念場を迎えている。なにしろ、戦史を題材にフィクションを交えて書かれた歴史小説まで「戦記シミュレーション」と銘打たれているのが現状なのだ。
これからこの二つのジャンルを読んで見ようという人へ十冊推薦せよということだが、これらのジャンルの本というとたいていはシリーズになっているので、十シリーズの紹介ということになる。
順不同
(「S−Fマガジン」1993年12月号掲載)
附記
「S−Fマガジン」が新たに「ヤングアダルト」というジャンルをたてて書評ページを改定した際、奇数月は三村美衣、偶数月は喜多哲士が書評家として起用された。レギュラー書評は、私にとっては5年半ぶりということで、かなり緊張した。
書評の連載開始に先立ち、その前月号でヤングアダルトの小特集が組まれた。次号から書き始める書評のプレビューというような感じである。冷や汗ものではあるけれど、もとのまま掲載した。
今読むと、中国伝奇アクションについては予想は完全に外れてしまっているし、架空戦記についてはまったく予想が立てられない状態で臨んでいることがわかる。
ところで、「伝奇アクション」という言葉は、この原稿のための造語である。よくまあこういう言葉をでっち上げられたものだ。今ではまるで元からあった言葉のように使われてるぞ。