ブック・レヴュー


「疾風真田戦旗」「神異伝 四」ほか

 忍者の登場する小説をこれから書こうとすると、必ずぶち当たる壁が二つある。まずぶち当たるのが山田風太郎。「忍法帖」という一つのスタイルを確立し、発展させた伝奇小説の巨人である。そして二つ目の壁は隆慶一郎。歴史を社会から切り捨てられた者たちの視点から見つめなおし、権力者との戦いをドラマチックに描いた傑物である。
 この二人の小説を基準にして伝奇小説を読むと、たいていの作品は読めなくなるといっても言い過ぎではないだろう。なにしろ、どれをとっても「ハズレ」がないのだ。忍者たちが、まるでゴミのように扱われることを承知の上で、それでも戦いの中にアイデンティティーを求めながら生きていくその姿が、この二人の作品ではすさまじいまでに書きつくされている。
 そんなジャンルに果敢に飛び込んできた新人がいる。『疾風真田戦旗』(七五〇円/トクマノベルズ)で長編デビューした赤坂好美である。
 時代は大坂冬ノ陣の直前。徳川家康はいかにして豊臣家を滅ぼそうかと画策している。一方、真田幸村はかつて自らが愛したくノ一家・綾女を中心とした忍者たちを使ってなんとかその企みを阻止しようとする。天海僧正の呪術に対抗するのは、若き忍者源四郎。家康豊臣秀頼に上洛を求め、その機会に呪殺してしまおうとする。これに対して源四郎たちはいかなる手段で対抗していくのか……。
 おなじみ猿飛佐助や霧隠才蔵らも活躍するこの話、構成もしっかりしている上に、登場人物も魅力的ではある。しかし、どうしても風太郎と慶一郎の壁が立ちはだかっていて、その分損をしている。しかし、そのようなジャンルに敢えて挑戦し、これだけの作品を書いたのだから、お見事と言う他はない。
 もっとも、天台僧である天海が真言密教の呪法を使ったりというような、首をかしげて しまうような記述が散見させられるのは事実で、続刊ではそこらへんをいかにクリアして いってくれるか、期待したい。
 伝奇小説の書き手として僕が以前から贔屓 にしているのは火坂雅志で、その最新シリーズである『神異伝』の四巻が刊行された。(七五〇円/トクマノベルズ)。このシリーズこそ、風太郎「忍法帖」の奇想天外なアクション性と、半村良の「妖星伝」のような世界の存在の秘密を解き明かしていく壮大さを兼ね備えた大作である。
 主人公は鎌倉時代初期の神異僧・明恵と平家生き残りである悪七兵衛景清の二人。この二人は、超能力と暴力をそれぞれ体現した人物と言える。 明恵は聖徳太子が残した「未来記」の謎を解明すべく、また景清は鎌倉幕府を倒し平家を再興しようとそれぞれ活動を始めるが、この二人の共通の敵として高千穂御先衆と呼ばれる謎の刺客が現われる。彼らは人々の夢を司る役割を超古代より果たしてきた一族なのだが、明恵らの活動が夢界を侵すものであるため妨害せんとしているのだ。しかも彼らは世界の根源をたどり、この世を支配しようとしていたのであった。
 古代の人々が夢を異世界からのメッセージとしてとらえ夢の解読をするプロさえいたという研究は、西郷信綱らの著作などによって知られているが、著者はそれらの成果を自薬篭中のものとして作品に奥行を持たせている。その姿勢は隆慶一郎とも共通している。
 いよいよ次巻完結篇では、世界創生の秘密はが解き明かされるという。早く読みたいものだ。待てない人は、デビュー作『花月秘拳行』が富士見時代小説文庫より再刊されたのでそちらを手に取ってみてほしい。
 伝奇でもシミュレーションでもないが、紹介しておきたいのが太田忠司の『Jの少女たち』(七八〇円/講談社ノベルズ)。「やおい」同人誌を作る少女たちの世界を、決して興味本位でなく描いている。読まずに非難している人も、まず手に取ってほしい。現代人の抱える問題点をほろ苦く味わうことができる。

(「S−Fマガジン」1994年2月号掲載)

附記
 「S−Fマガジン」の「ヤングアダルト」書評の第1回。まだ「ヤングアダルト」に対するスタンスが定まっていないのと架空戦記の新人が出揃う前だったため、本格的な伝奇小説を2冊紹介している。『Jの少女たち』をとりあげたりしているのは今から考えるとおかしな話だが、直前の「京都SFフェスティバル」で女性作家の方たちが帯の惹句だけでこの本を非難していたのでとりあげてしまった次第。この連載が5年以上も続くようになるとは、この時は夢にも思っていなかった。


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