ブック・レヴュー


作家別日本SF最新ブックガイド
高千穂遥(たかちほ はるか)

 アニメーションや特撮で育った世代にとっては〈クラッシャージョウ〉シリーズは衝撃であった。当時の中学生や高校生はいわゆる「ジュヴナイルSF」は知っていても、それ以外のSFといえば大人向きのものしかなかったのである。ちょっと背伸びをして読むSFはかっこいいものだった。スペースオペラといえば翻訳SFしかなかった。そこに登場したのが〈クラッシャージョウ〉である。アニメーターの安彦良和がイラストを担当しているのも魅力の一つであった。活字で書かれたオリジナルのSFアニメ、そんな感じがした。続けて登場した〈ダーティペア〉は、男性作家による女性一人称話し言葉という文体が新鮮な上に、主人公のキャラクター造形が秀逸であった。驚くべきことに、これらはテレビアニメとは違い、本物のSFであった。この2作品以降、中高生向けのスペースオペラが続々と書かれるようになり、いわゆる「ヤングアダルト」というジャンルが生まれるようになった。それらを読んだ読者が大人になって書き手にまわるようにもなった。つまり高千穂遥は出版業界における新しいジャンルを産んだ作家なのである。それ以後も高千穂遥は格闘技をメインにした作品や伝奇アクションの先がけといえるものを書き続け、つねに新しいものに挑戦する姿勢を見せた。時代は流れ、新しい書き手は高千穂遥を追い抜いていったかに見える。しかし、高千穂遥がなしとげた功績には誰も遠く及ばない。

〈クラッシャージョウ〉シリーズ
 ワープ航法の発達で宇宙に進出しはじめた地球人たち。その中で惑星改造屋として脚光を浴びたのがクラッシャーたちである。ジョウ、タロス、アルフィン、リッキーの四人組は、依頼された数多くの難事件に抜群のチームワークで立ち向かう。過去のジャンルとなっていたスペースオペラを現代に再生し、ヤングアダルトというジャンルを確立した日本SF史上に残る名作。

〈ダーティペア〉シリーズ
 WWWAの犯罪トラブルコンサルタント、ユリとケイ。コードネームは「ラブリーエンゼル」しかし、難事件を解決するために都市や星を破壊してしまう二人についたあだ名は「ダーティペア」。女性コンビを主役とし、ケイの伝法な口調で語られる物語は多くの読者を獲得した。しかし本シリーズはただの痛快アクションというだけのものではない。そこにはしっかりしたSF考証の裏づけがある。高千穂遥の最高傑作。

〈ダーティペアFLASH〉シリーズ
 WWWAは物理的な力の及ばない「妖魔」に対抗して高い霊的エネルギーを持った二人の少女をトラブルコンサルタントとしてスカウトした。乱暴者のケイと男性の気を惹くことしか頭にないユリ。二人は何の訓練も受けずに事件の中心地である薔薇十字学院に転入する。真言僧や陰陽師、ヨーガの達人らも加わって、妖魔退治は混沌のるつぼに。〈ダーティペア〉を伝奇アクションとしてリフレッシュさせた意欲作である。

(「SFが読みたい!」2003年版掲載)

附記
 「SFが読みたい!」2003年版で企画された「作家別日本SF最新ブックガイド150」でとりあげられた作家紹介文。


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