高瀬彼方は生真面目な作家である。それは彼の作品に対する姿勢がオーソドックスであると私は思うからである。
スペースオペラ、架空戦記、現代ファンタジーと、高瀬彼方の作品世界は一作ごとに変化していく。そして、それらのスタイルはおのおののジャンルのスタンダードたり得るかというと、決してそうではない。彼はどこかそれらのスタンダードなスタイルから意識的にずらした形で作品世界を提示する。例えば『カラミティナイト』で異世界ファンタジーの枠組みを現代社会に持ってきてみたように。
これこそ、彼がオーソドックスに作品世界に向き合っている証拠であると私は思うのだ。誰の物真似でもない、オリジナリティを大切にした作品世界を作り上げることこそが、彼の誠実な姿勢なのである。どこかで読んだような話を縮小再生産したって、そこにどれだけの値打ちがあるだろう。彼は新たなジャンルに挑戦するたびに、そういう主張を作品に込めているのではないだろうか。
だから、高瀬彼方の作品は一時的に爆発的には評判になりにくいかもしれない。しかし、振り返るとそこには本物の面白さを持った作品が残されているのである。
オーソドックスと一口にいっても、それを貫き通すことはなまなかな実力がなければできないことである。息の長い実力派作家として彼の才能が開花する時期は、近い。
(「S−Fマガジン」2001年2月号掲載)
附記
「S−Fマガジン」21世紀到来記念特大号PART1日本SF篇で発表された「21世紀SFのキイパースン」の作家紹介を、という依頼を受けて書いたもの。