デビュー作から一貫して富樫倫太郎は彼の内部にある小宇宙を作品にし続けている。それぞれが微妙に重なりあい、一つの大きな物語世界を築き上げているのである。
確かに、実際の歴史をベースに物語は進む。が、そこで描かれている世界は、我々の知るそれとは微妙に違うように感じられる。
歴史を改変しているわけではない。史実とは微妙に肌合いが違う。歴史を動かしている因果率が違う。その因果率こそ富樫独自のものだと言えるのである。
そういう意味では、彼の作品は異端である。従来の時代伝奇小説の定義ではくくれない何ものかを持っている。歴史の裏側にいる者を描くというよりも、本筋の歴史にない者を創造しているといってもよい。それが実在の人物であったとしても、だ。
その描き方も執拗なまでに異形であることを強調している。執念すら感じさせる。彼をつき動かすその執念の源泉はいったい何なのだ。
読み手は、最初は戸惑うかもしれない。が、次々と繰り広げられる富樫ワールドには、一度踏み込むとそこから抜けられない密林のような魔力があるらしい。
富樫ワールドはまだまだ完結していない。いや、一生かかっても完成しないパズルのようなものかもしれない。全ての作品がライフワークのようなものなのだろう。
その壮大な世界が全貌を現わす日がくるのを楽しみにして待ちたい。
（「Ｓ−Ｆマガジン」２００１年２月号掲載）
附記
「Ｓ−Ｆマガジン」２１世紀到来記念特大号PART1日本ＳＦ篇で発表された「２１世紀ＳＦのキイパースン」の作家紹介を、という依頼を受けて書いたもの。
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