ブック・レヴュー


作家別日本SF最新ブックガイド
田中芳樹(たなか よしき)

 田中芳樹の不幸は『銀河英雄伝説』が売れ過ぎてしまったことにあるのではないかとさえ思う。しばらくは同様の作品を書き続けてきたが、それらの多くは中断した形で終わっている。もともと大量生産には不向きな職人タイプの作家なのではないかと思う。そして、本人は宇宙を舞台にした人間模様を描くことよりも、中国を舞台にした伝奇武侠小説に関心を移してしまった。ただ、その要素は『銀英伝』にすでに含まれてはいた。その他の作品にもいえることだが、田中芳樹の書く物語は最初からきっちりと計って作られている。もう既に起こってしまったことを記録したというスタイルなのだ。それだけに、作者の熱意が醒めてしまうと書き続けるのは苦痛にもなるだろう。
 田中芳樹の小説は、実は歴史小説なのだ。ただ、その世界のことを知っているのは作者だけ、ということになるのだけれども。したがって、SF戦記から中国ものに移っていったのには何の不思議もない。〈創竜伝〉シリーズや〈薬師寺涼子〉シリーズのような誇張された設定で主人公たちが小気味よいアクションを繰り広げるコメディタッチの作品にもそれは感じられる。ともあれ『銀英伝』という画期的な作品を残しただけでも田中芳樹の偉業は日本SF史上に燦然と輝いているといっていいだろう。
 最近では舞台設定やストーリーの原案を提示し本編は若手作家にゆだねるということも多くなってきている。

『銀河英雄伝説』
 SF戦記の金字塔。銀河帝国のランハルト・フォン・ローエングラムと自由惑星同盟のヤン・ウェンリーを軸に、多数の登場人物が入り乱れ、鮮やかな人間模様を織り成す。戦略論、戦術論を本格的に導入し、SF版『三国志』として高い人気を博する。完結後数十年たってもその人気はいまだ衰えず、新装版が出る度に新たな読者を獲得している。キャラクター造形、ストーリー展開など、その後に出たSF戦記に与えた影響は大きい。

『七都市物語』
 地軸が九十度回転してしまう「大転倒」後の地球が舞台。人類は地球に7つの新しい都市を築いて勢力争いを展開する。月に設置された迎撃システムがあるために空中戦ができないという制約を設け、人格は悪いが超一級の軍人たち三人が知謀を尽くす覇権争いは読みごたえ十分である。『銀英伝』とはまた違ったタイプのSF戦記を目指したものであるが、未完のまま中断してしまっている。

『灼熱の竜騎兵』
 26世紀、木星を材料にした人工的な惑星が15作られ、地球人はそれぞれの星に植民していた。その中の一つ、ザイオンでの独裁者の圧政と、それに対して自由を勝ち取ろうとする若き革命家たちの戦いを描く。本書もまた未完ではあるが、設定資料をもとにしたシェアードワールド・シリーズを、小川一水が書きはじめている。新たな書き手による田中芳樹ワールドがどのような広がりを見せるのかが注目の的だ。

(「SFが読みたい!」2003年版掲載)

附記
 「SFが読みたい!」2003年版で企画された「作家別日本SF最新ブックガイド150」でとりあげられた作家紹介文。


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