笑芸つれづれ噺


「らくごのご」

 「ざこば鶴瓶 らくごのご」というTV番組をごぞんじだろうか。これは、いわゆる「三題噺」という座興を本格的な高座でやってしまうという番組なのだ。
 会場からお題を集め、その中からゲストの人気タレントが三題を選ぶ。桂ざこばと笑福亭鶴瓶の二人は、そのお題を寄席文字の橘右左喜が大きな紙に書き終えるまでに即興で落語に仕立て上げなければならないのだ。
 必ずその3つのお題を折り込みつつ、ストーリーを作り、サゲまでもっていかなければならない。しかも、これは落語であるからして、笑いをとらなければならないのだ。
 笑福亭鶴瓶は落語をしない噺家として知られてきた。彼が得意とするのはトーク番組であり、素人から面白さを引き出す話術である。
 一方、桂ざこばはバラエティ番組に出演してはいるが、定期的に独演会を開き、多数の古典落語のレパートリーをもつ、ベテランの噺家である。彼の「強情」はそのキャラクターにあった逸品で、他の噺家には出せない味をもっている。
 硬骨漢のざこばにほんわかした鶴瓶というキャラクターのコントラストがいい。
 ざこばの作る三題噺はものすごい。古典落語の噺家とは思えないほど、ストーリーは飛躍し、シュールな展開を見せる。
 一方の鶴瓶は実に手堅く噺をまとめる。フリートークで、即興の喋りを鍛えているからだろうか。ざこばがサゲが出ないで涙ぐむのに対し、スカッとしたサゲを決める。
 この企画が成功したのは、そのコントラストによるものだろう。普通は古典落語をみっちりとやっているざこばがかっちりとした噺を作り、フリートークのうまい鶴瓶が自由自在な噺を作りそうなものだが、それが反対になっているところがミソである。
 だから、ざこばは多少噺が無茶苦茶になろうとも、強引にサゲにいく。出来が悪いと「かんにんして」と言って降りる。鶴瓶は、サゲが出来ないまま高座に上がると、以外にもろい。「あかんわ、どないしょう」とメロメロになることもある。強引に噺を終わらせることができない性格なのだろう。
 ときには、「らくごの鉄ビン」と称して3人ですることもある。東京から林家こぶ平、三遊亭小遊三ら、大阪では、笑福亭鶴光、桂春之輔、笑福亭松枝、月亭八方らが、挑戦した(鉄ビンというのは「料理の鉄人」のもじりである。鉄人というほどたいしたことない、わしらは鉄ビンや、というわけ)。これも人が使ったようにお題を使うと面白くなくなるので、最後の者は四苦八苦してしまう。
 落語という一人語りの面白さに、即興性というハプニング、そして、噺を作り上げていく過程を楽しめるドキュメント性。これらが一体となったがために、「らくごのご」は人気番組となった。
 忘れてはいけない。司会の酒井ゆきえの明るさ、さわやかさもこの番組を支えるもう一つの柱である。大阪の女性司会者はたいていアクが強く、出演者を食ってしまう。わざわざローカル番組のために(現在は全国にネットしているが)東京から司会者を呼んだのは、そういった効果を考えてのことだろう。
 まだご覧になっていない方は、ぜひ一度見ていただきたい。特にトーク番組でしか鶴瓶を知らない方はね。

(1997年10月11日記)


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