大相撲小言場所


九州場所展望

 11月9日より、九州場所の開幕だ。
 新番付では出島の新関脇、栃乃洋の新小結という、新鋭の昇進が話題を呼んだ。両者の相撲は対象的である。ひたすら押しに徹する出島、左四つからの寄りを得意とする栃乃洋。2人に共通するのは、立ち合い変化したりせず、正攻法でいくことだ。これは玉春日、土佐ノ海にもいえることだが、最近躍進してきた学生相撲出身者に共通するのは、このケレン味のなさだろう。逆に栃東のような技能派力士が立ち合いに変わる相撲で星を稼いでいるのは見苦しい。
 私が今場所期待するのは、上記の学生出身の4力士である。玉春日と土佐ノ海は相手に相撲を覚えられたり故障があったりでここ数場所一進一退を繰り返しているが、この壁を破ってこそ大関への道も見えてくるというものだ。私はもともと麒麟児、富士桜といった押しに徹した力士をひいきにしている。特に富士桜は「組めば三段目」といわれるほど四つ相撲にはならない力士だった。実は旭国、鷲羽山、栃赤城などの技巧派小兵力士もひいきにしてきたのだが、その衣鉢を継ぐ力士があまり出てこないのは寂しい。
 さて、展望と銘打ったからには優勝力士の予想なんて事もしたいところだが、ここ数年、優勝予想がつまらなくなってしまっているので、あまり書きたくない。早い話が「終わってみれば貴乃花」ということになるだろう事は想像に難くないのであって、対抗馬を探せというほうが難しいくらいなのだ。曙、武蔵丸は怪我でだめ。若乃花もいいところまでいくだろうが、15日間好調を維持するのを求めるほうが酷という場所が続いている。
 そこで、大穴としてあげておきたいのが貴ノ浪である。先場所、序盤で出島、栃乃洋に敗れたときは「また9勝止りか」という感じだったのが、終わってみれば12勝3敗。これは優勝決定戦に出た貴乃花と武蔵丸に次ぐ星なのだ。実際、貴ノ浪という力士は何が飛び出してくるかわからない大物だ。得意の河津掛けなどという珍手に代表されるように、相手に中に入られても最後にひっくり返す不思議な相撲をとる。以前優勝決定戦で貴乃花を破ったことがあるが、貴乃花のような正攻法の力士にとってはこういう力士が一番やりにくいタイプなのである。せめて優勝決定戦までいくような活躍を貴ノ浪がしてくれれば。
 ここまでは新聞や雑誌とあまり変わらない予想になるが、実は今場所ぼくが期待している力士がもう1人いる。それは、再入幕の大和である。ハワイ出身で学校では曙と同級生だったという彼は、新入幕からしばらくはモタモタした相撲であまり期待できなかったのだが、先場所十両に陥落して相撲が変わった。体重を利用した積極的な相撲で、実に堂々たる取り口。十両に陥落しても「ぼくは幕内力士だ」と自分に言い聞かせながら相撲をとったという。ぼくは大和がここでひと皮むけたとみている。再び幕内に上がった大和が先場所のような相撲をとれば、三賞も期待できる活躍を見せてくれると思うのだ。
 有望力士が故障続きであまり盛り上がらない九州場所だが、「終わってみれば貴乃花」などと言われることを恥と思ってもらいたい力士は何人もいる。ここでは書けなかったが、小錦の去就も含めて、注目してみたい。 

(1997年10月29日記)


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