平成9年大相撲九州場所、優勝は大関貴ノ浪(2回目)。優勝決定戦で横綱貴乃花を上手投げで破っての、堂々たる優勝である。場所前に予想したとおり、優勝決定戦になれば、貴ノ浪のスケールの大きな規格外の相撲が正攻法の貴乃花を惑わせるのだ。
貴乃花の相撲は相手が十分になっても自然自然に横綱の形になるという理想的なものだ。ところが、懐の深い貴ノ浪は、横綱が攻めても攻めきれない。前回の決定戦では河津掛けの奇襲で貴ノ浪が逆転勝ちしたが、今回はしっかりと上手を取ってねじ伏せるというスケールの大きな取り口。
貴ノ浪は来場所横綱をめざした相撲となるが、変に意識せず、今まで通りのとんでもない相撲を取りつづけてほしいものだ。横綱らしい相撲などと考えると、体が動かなくなり結局やられてしまうことになるだろう。
終盤直接対決で連敗し、優勝を逃した武蔵丸だが、突き押しに徹しきれなかったのが敗因だろう。なまじ器用で四つ相撲も取れるだけに、かえって相手のペースに巻き込まれることになる。そこらへんが直らなければ、横綱は遠のいていくだろう。
さて、それ以外はといえば、全体に低調な場所だったといえる。三賞が武双山の敢闘賞のみというのが象徴的である。その武双山にしたところで、11勝はしたが横綱大関には勝てず、気がついたら二ケタ勝っていたといったあんばいだ。昔から「関脇の強い場所は面白い」というが、今場所は関脇小結全て負け越しという最近では珍しい結果に終わった。これではどうしようもない。
特に痛かったのが出島と栃東の怪我である。出島の休場は貴乃花と貴ノ浪にとってはかなり大きかっただろう。栃東は出場し続けたが、千秋楽の貴ノ浪戦など、怪我がなければ寄り切れていたかもしれない。両者とも怪我をするまでは万全の相撲をとっていただけに残念でならない。慢性にならないように気をつけてほしいものだ。巡業などは思い切って休み、怪我の回復を優先させてほしい。
来場所以降の成長が期待できるのは千代大海である。今場所は惜しくも負け越したが、若乃花を押し出した一番など、若者らしい思い切った相撲が光った。こういうタイプの力士、好きだなあ。
スポーツ紙の一面を飾ったのが小錦の引退と貴ノ浪の優勝の2回だけとは寂しい限りだ。これも怪我人の多さから相撲に活気が出なくなっているためではないか。親方株の問題よりも、巡業のあり方、海外公演の削減、増え過ぎた力士数など、対策を急ぐ問題は多いはずだ。来年こそは、土俵の充実に力を入れ、怪我人のない場所にしてほしいと願う。
(1997年11月26日記)