大相撲初場所初日、横綱を狙う大関貴ノ浪は、ベテラン琴錦と対戦。これまでの対戦成績が五分に近いということで注目された。
貴ノ浪は立ち会いから大きく脇をあけて琴錦を引っ張り込み、小手に巻いて振り回し、琴錦を土俵に叩き付けた。やったな、と思った。このような相撲を取ると、すぐに周囲は大関らしくないとか横綱を狙う相撲ではないとかいったものだ。貴ノ浪もこれまではそういう雑音を気にして正攻法で勝とうとして失敗してきた。
ところが、今日は違った。自分から意識して相手を引っ張り込み、俺にはこの相撲が一番なんだと言わんばかりに勝ってみせた。しかも、今日は桟敷席に横綱審議委員会の爺さんどもが陣取っていたのだ。その目の前で見せつけるような相撲をとった。これは貴ノ浪の開き直りであり、相撲を取ることにより「俺は優勝して横綱になってやるぞ」という宣言をしたも同様である。今場所の貴ノ浪、ひょっとしたらひょっとするかもしれないよ。
対称的なのは両横綱だ。貴乃花は魁皇相手に不用意にまわしを取りにいって魁皇得意の右上手を取られ、慌てて寄っていったところを投げ飛ばされた。曙は休場あけということでこわごわ相撲をとっている。及び腰で出ていったから足がついていかない。旭豊は待ってましたとばかりに土俵際で投げを打つ。足が流れているから残すことができない。
「自分の相撲をとるだけです」とは貴乃花がよくいう言葉であるが、今日に限っては自分の相撲を取り切ったのは貴ノ浪や武蔵丸で、貴乃花も曙も自分の相撲を忘れたかのような一番であった。
初日だけを見てその場所の全てがわかるわけではない。15日間は長い。何が起こるかわからない。しかし、貴ノ浪が今日のように開き直って毎日自分の相撲を取りつづければ、結果は後からついてくることだろう。
(1998年1月11日記)